筆者は、2018年度から2019年度に、法務省更生保護就労支援事業所長の職にあり、多くの刑務所出所者、少年院仮退院者の就労支援に携わってきた。そこで、ある時意外なケースに直面した。
少年院に収容されている少年の支援は、院内の面談室で1対1で行う。ある時、少年から次のような希望があった。
「先生、おれの就職ですけど、現金手渡しの会社にして下さい」
なぜ17歳の少年が銀行口座を持てないのか
不審に思った筆者は「君、いまどき現金手渡しの会社って、日雇いくらいだよ。コンビニだって100均だって口座振り込みだぜ。毎日、日給を手渡しで貰いたいとね?」と質問した。
すると少年は次のように返答した。
「いえね、おれOS(オレオレ詐欺)やったんすよ。先輩に口座を集めろって言われて。だから、銀行口座持てないんすよ。口座振り込みが厳しいんで、手渡しの会社しか無理と思います」
この少年は、面談時点で17歳である。そんなことがあるのだろうかと筆者にはにわかに信じられなかった。
そこで、後日、暴力団の口座開設に関する特集記事を組むという新聞社の方に、「特殊詐欺をやった少年から口座が開設できんという話があった。悪いけど、銀行の担当者に確認してくれないか」と真偽確認の依頼をした。
その結果、少年の言ったことが事実であったことを知ったのである。
17歳の少年が銀行口座を持てない――。
この信じられない制度には、今年で30周年を迎える「暴排条例」が影響している。