国内随一の自殺の名所、福井県の東尋坊。自殺抑止のために見回り活動を続けるのが、NPO法人「心に響く文集・編集局」の代表・茂幸雄さん(78)だ。

 断崖絶壁の東尋坊は、サスペンスドラマで犯人が追い詰められるシーンなどで使われることが増え、自殺の名所としてのイメージを強くしていった。東尋坊の自殺者数は茂さんが活動を始める前の2003年までの10年間は256人と毎年20人を超えていたが、活動後のその数は半減。2021年には初の一桁となる8人だった。そして、約18年の活動で声をかけて保護した人は755人にも及ぶ。

 そして、茂さんは自殺をしようとする人を保護することにとどまらず、抱えている問題の解決を目指し、プライベートな問題にすら踏み込んでいく。(全3回の3回目/#1#2を読む)

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NPO法人「心に響く文集・編集局」が撮影した自殺企図者の姿。「両親は高学歴者で東京大学卒しか認めず大学を卒業して塾の講師をしているが、常に兄弟と比較する虐待を受けており、人間失格と考えて自殺しに来た」(NPO法人「心に響く文集・編集局」提供)

1人で岸壁に座り込み…東尋坊に佇む人々の写真集

 ただ、東尋坊には年間を通して多くの観光客も訪れる。そんななかで自殺しようとしている人をどう見極め、声をかけているのだろうか。

「東尋坊には飛び込みが多いスポットが3つあるんですわ。自殺しにきた人は『ここなら死ねそうだな』と思うんでしょうね。それになんかね、見たらわかるんですよ。手荷物がほとんどなく、手土産も持っていない。岩場付近のベンチに座って観光客を装ってはいますが、人混みを避けて景色を見るというよりは、崖下を覗き込んでいる。日没も気にせず2〜3時間も休憩したりしていることが多いですね。黒っぽい目立たない服装の人が多いかな」

 茂さんたちは見回り活動のなかで、気になった人の姿を写真に収めている。そうした写真を本人の許可を得てまとめたのが、写真集「蘇 よみがえる」だ。写真集には、老若男女、さまざまな人が一人で岸壁に座り込み、中には大きく頭を垂れている人の姿も写っている。その背中からは、彼らの心中に渦巻く苦悩が迫ってくるかのようだ。

 本記事に掲載されているのは、茂さんが「自殺の現場の実態を知ってもらいたい」と提供してくれた写真の一部だ。写真にはそれぞれ、なぜ自殺をしようと思ったのか、そのワケが簡潔な言葉で添えられている。