日本海の荒れ狂う波が巨大な柱状の岩にぶつかり、大きな音を立てながら水しぶきをあげている。崖上から覗き込むと、吸い込まれそうな恐怖心から身震いした。一方で、圧倒的な景観と不規則な白波は、不思議といつまで眺めていても飽きない。
ここは福井県坂井市にある県内有数の観光地・東尋坊だ。約1キロにわたり続く岸壁は国の名勝・天然記念物に指定されている。そして自殺の名所として負のイメージを持つ人も多いだろう。
しかし、実際の自殺者は年々減少している。NPO法人「心に響く文集・編集局」が周囲を見回り、身を投げる寸前の人に「ちょっと待て」と救いの手を差し伸べているからだ。(全3回の3回目/#2、#3を読む)
自殺の名所の“ちょっと待ておじさん”
「本当は死にたくない。自殺しようとしている人のほとんどは、そう思っているのに自分ではどうすることもできずに飛び込むんですわ。何人もの人からそんな思いを聞きましてね。見過ごすわけにはいかんなとね」
NPO法人「心に響く文集・編集局」の代表、茂幸雄さん(78)はこう話す。その口調はぶっきらぼうだが、優しさがにじみ出ている。
自殺防止のため、窓口を設けて電話での相談を受ける行政機関やNPO法人は多い。しかしそういった窓口でできることは、ひたすら相談者の悩みを聞いて励ますこと。自殺を考えるに至った原因の解決にまで踏み込むことは、プライバシー侵害にもあたるため「できないしやらない」というのが“普通”だ。
しかし茂さん達は、自殺を思いとどまらせるために日本中どこへでも向かっていってしまう。時には自宅へと赴いて家族問題にも首をつっこみ、強引に解決へと導いていく。
「鬼退治や」
茂さんはそう静かに語る。活動の詳細に触れる前に、まずはなにが彼をそこまで突き動かしているのか、そのきっかけについて語ってもらった。