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ベンチに佇む老カップル「手首には新しい切り傷」

 それでも茂さんは怒りと虚しさをこらえ、いつもの見回りを続けた。2003年9月3日の夕暮れ時、いつものように勤務終了後に東尋坊を訪れた茂さんは、ベンチに佇む70代の女性と50代の男性に声をかけたという。

「女性はきちんと座ってたけど、男性はベンチにぐたーっと横たわってたんです。明らかに様子がおかしかった。話を聞くと、2人は東京で飲食店を営んでいたが、経営が悪化して200万の借金を抱えてしまい、心中しようと東尋坊まで来たと話してくれたんですよ。

 2人の手首にはまだ新しいカミソリで切った傷があったから、『これはアカン』と急遽近くの病院に入院させ、地元の福祉課に保護の手続きをお願いしました。福祉課の担当者には『あんたらの義務やぞ』と言ってね」

 

 そして数日後、茂さんのもとにそのカップルから手紙が届いた。自殺を思いとどまり、前向きに生きようとする言葉が並んでいるかと思いきや、実際はそうではなかった。

「手紙には、私と別れた後、福井、石川、富山、新潟とその都度数百円の交通費だけを渡されてたらい回しにされたと書かれてた。その上、役場では『死ぬならどうぞ』とまで言われて絶望したと。『もうここらが潮時だとあきらめました』という内容でした。2人はその後、神社の境内で首を吊り自殺をしてしまった」

届いた手紙「希望を目指す心がこなごなに」

 茂さんの手元に今も残るカップルからの手紙を見せてもらった。そこにはこんな言葉が綴られていた。

《皆様の励ましのお言葉に頑張り直そうと再出発いたしましたが、(中略)つかれ果てた二人にはとうていあと何日も続く日数を飲まず食わずで戦っていく気力はありません》

 

《三国署の副署長さん以下の皆さんの御心はこれから先死んでも忘れる事はないと思います》

 

《死ぬのが恐ろしくなっていた二人が今一度決意致しましたのには絶望の一日一日が気望(※希望)をめざす心などこなごなに砕くにはさして日数はかかりませんでした》

 

《これからこのような人間が三国に表れて(※現れて)同じ道のりを歩むことのないように二人とも祈ってやみません》

 

※原文ママ

 

 

 

 「どういうこっちゃ。こんなバカなことあるか!」

 茂さんは福井県警在職中の2003年12月にNPO法人「心に響く文集・編集局」の立ち上げを申請し、数多くの天下り先をすべて断って自殺企図者支援に第2の人生を賭けると決意した。多くの賛同者が集まり、茂さんたちの「鬼退治」が始まったのだ。

 そしてこの活動は、数多くの結果を残していく。

◆◆◆

NPO法人「心に響く文集・編集局」からは茂さんへの相談の予約などができる。

【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

その他の写真はこちらよりご覧ください。

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