2007年6月19日、内閣総理大臣が主宰する犯罪対策閣僚会議の幹事会申合せによって「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(以下、政府指針)」に、「反社会的勢力」が定義された。これにより暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等が「反社会的勢力」と定義されることとなった。
さらに、この政府指針は、反社会的勢力に対する契約時の対応策についても言及し、銀行などの金融機関が警察と協働して、「反社データベース」を構築し、適宜更新していくことを勧めた。
《取引先の審査や株主の属性判断等を行うことにより、反社会的勢力による被害を防止するため、反社会的勢力の情報を集約したデータベースを構築する。同データベースは、暴力追放運動推進センターや他企業等の情報を活用して逐次更新する》
この政府指針に則り、全国銀行協会をはじめとする各団体では、「暴力団や暴力団を離脱して5年が経たない者など」に対して、口座開設を謝絶するようになったのだ。
政府の“奇策”で「暴力団員」以外も「反社会的勢力」に
また、民間企業においても、レピュテーションリスク(評判リスク)を回避するために、こぞって契約書に暴排条項を設けるようになった。例えば、読者も、ホテル宿泊の契約時などに「暴力団員等の反社会的勢力ではない」という項目にチェックを入れた経験があると思う。
しかしその後、2011年までに47都道府県に施行された暴排条例以降、暴力団の動きが制約されるなかで、半グレの勢力が右肩上がりに拡大した。そして半グレのお家芸である特殊詐欺の被害が増大してきたことで、「反社会的勢力」が再定義されることとなった(2019年12月10日、第200回国会(臨時会)において為された閣議決定)。
《政府としては、「反社会的勢力」については、その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難である》
わかりづらい文章だが、要するに「反社」の定義は、政府にも出来かねる。だから、相手を反社に含めるかどうか、取引を遮断するか否かの判断は、各取引企業の判断に委ねたいということだろう。
本来であれば、政府が半グレや特殊詐欺を念頭において、「反社会的勢力」の定義を再考すべきだったが、「あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難である」とすることで適用の範囲を広げる「奇策」に出たのである。
この閣議決定によって、企業は自己防衛のために反社チェックを厳格化せざるを得なくなった。「疑わしきは排除」という風潮が生まれ、前述の少年のように一度でもオレオレ詐欺などの特殊詐欺に手を染めるとその後、どれほどちゃんと更生しようと問答無用でブラックリストに載ってしまい、もう二度と、銀行口座を作れなくなってしまうのだ。