「テロリストと呼ばれる人々を更生させるのは簡単なことじゃありません。徒労感も多ければイライラすることもあります。ただ、そんな不満を並べても世界は0.01%も変わらないのです」
“国際協力”と聞けば、貧しい子供たちの「眩しい笑顔」の写真を並べて募金を呼び掛けたり、大学生が夏休みにボランティアに赴き人々と交流したりするイメージが思い浮かぶ。
だが当然、支援の現場――特に厳しい紛争地の現場は、いつも柔和な顔で溢れているわけではない。
ソマリアやイエメンのテロリストに投降を促し、更生の支援をするNPO法人「アクセプト・インターナショナル」の代表・永井陽右さん(30)のTwitterを覗くと、ものものしく防弾チョッキを着こみ、紛争の最前線から現地のレポートをする写真や動画で溢れている。
「なかにはSNSで私を見つけ、『お前、殺すから』とメッセージしてくる人もいますし、知らない番号から突然電話が来て脅されることも珍しくありません。何より現場で共に仕事をしてきた仲間がこれまで何人も死んでしまいました。
私たちは投降を促す立場なので、組織からすれば目障り極まりない。紛争が終わっていない現場で、およそ和平合意も結べない武装勢力からの投降を引き出すということは、常にリスクと向き合いながら対処し続けることを意味します」
文字通り命がけの支援だが、それでも1人の若者がこのような仕事をするようになったのは、なぜなのだろうか?(全2回の1回目/続きを読む)
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「国が沈む」ニュースに衝撃を受けた高2の夏休み
永井さんは神奈川県海老名市で生まれ育った。元々は「勉強などはさっぱりせず、バスケが好きなやんちゃなクソガキ」だったというが、高校2年生のある日、ネットニュースで“大発見”をすることになる。
「高校2年生の夏休みのことです。バスケ部は2日間だけ休みがあったんですが、その休みの日に偶然、『オセアニアのツバルという国が、温暖化による海面上昇の影響で海に沈んでしまう可能性がある』というニュースを見たんです。それまでは『勉強なんてしたらダサい』と思っていましたし、『他者のために何かする』なんてことは考えたこともなかったんです。ところが、なぜかこのニュースの『国が沈む』という話にすごく衝撃を受けました。
それまで見たことも聞いたこともない国でしたが、そこで暮らす人々は将来確実に国を失ってしまう。それまでは自分のことしか考えたことがなかったのに、急にそのニュースがきっかけで他者のことにもぼんやりと思いを馳せるようになりました。そこからは色々考えることもあり、先生に相談したり、紆余曲折を経て『(ツバルの国の人のように)困っている他者を救うべきだ!』という考えに至りました。ちなみに実際にはツバルは土地面積がかえって増えているという説もあるらしいですが(笑)」