誰だって面前に銃口を突きつけられたら従うしかない
「例えばいわゆるテロ組織の支配領域にいる住人は、基本的に拒否権を持っていません。テロ組織の兵士がある日、突然村にやってきて『30人若い兵士を集めておいて』と強制されることも当たり前。我々はイエメンでも活動していますが、そこでは『ジハードのために各家庭から1人ずつ出してくださいね』と連絡が来たこともありました。
そうして組織に連れていかれたあとは、過激派の思想教育を受けるとともに、武器の使い方や組み立て方などを教え込まれていく。気づけば立派な兵士になってしまうんです。こうした背景があるので、この手の紛争地で『テロリストであること』自体を責めるのは中々難しいわけです。誰だって面前に銃口を突きつけられたら従うしかないのではないでしょうか。
なので、テロ組織の支配領域を削減することも極めて重要なのですが、それも簡単にできることではない。そのうえで彼らはグローバルなネットワークも持っている。普通の武力紛争の解決には教科書があるものの、こうしたテロ組織相手の紛争となると、まだまだセオリーがないわけです。そうすると、すべて仮説ベースで行動していくしかありません」
「被害者感情をどうするんだ」という批判も
他の国際支援と異なり、大人のテロリスト特有の難しさもあるのだという。
「18歳以下の“子ども兵”であれば、たとえテロ組織であってもいくらでも保護してケアできます。国際法で守られる子どもですから。ただ、子どもではなく“テロ組織の若者”となると、非常に難しい。法的な問題もありますが、何より多くの人が子ども兵には同情・共感してくれますが、大人となるとそうはなりません。恩赦、つまり免罪もどこまでできるかという問題もあります。当然、被害者感情をどうするんだという批判も出ます。平和と正義のどちらを取るかという最前線のジレンマです。
しかし、“大人の若者”こそテロ組織内に最も多くの人数がいる年齢層なんです。だからこそ、彼らがちゃんと再起できれば紛争解決に大きな意味がある。たとえ共感されなくても、他の人々がやらなくても、問題解決に必要だからやるしかないんです。細かいことを言えば、そもそもテロの被害者であった人もいますし、子どもの頃に誘拐されて子ども兵として過ごし、20代になってしまったという人も数えきれないほどいます。
強制的に戦闘に参加させられた挙句、牢屋にぶち込まれて恨みが積もり、過激化していくケースもある。実際に私と同い年の受刑者が、脱獄後に他の刑務所を襲撃し、約30人が死亡、約100人が逃亡する事件を引き起こしたこともありました。その後『これからも自由の戦士として仲間を解放していく』と声明を出してきました。
紛争地域という場所で、子どもではない加害者をどう見るかということですよね。子どもや難民の問題のように、わかりやすく『かわいそう』とならず、そしてODAが投入されるような領域でもない。だからこそ、どうするか。独立性が高く機動性があり、ニーズに真正面から向き合える我々がやるしかないんです」