(「ユニクロ潜入でわかった、ジャーナリストが当事者になるべき理由」から続く)
なにごともSNSで情報が拡散される時代にありながら、ユニクロでは従業員の発信が禁じられている。SNSで空白地帯になっているからこそ、「当事者」となって報じる意味があった。
では、ユニクロは今後どうなっていくのか。潜入取材をもとに、デフレ構造で急成長したビジネスモデルを徹底解剖する。(全2回)
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横田 ネット上では、ユニクロ潜入取材への反響がとても大きかったと編集者から聞きました。
佐々木 インターネットのユーザーは、ボリュームゾーンとしては、40歳くらいのロスジェネ世代が多い。就職氷河期で、かなりひどい目にあっている人たち。その次に多いのが、ミレニアル世代と呼ばれる20~30代の若い人たちですよね。
どちらの世代も一貫して、働き方とか、格差とか、自分たちの生活にリアリティのある経済問題に関心がある。選挙で20代の自民党支持が多くて、上の世代は「なんだそれは」って言っているんですけど、実生活に関係ない「護憲」のようなテーマよりも、目の前で就職が前よりよくなったとか、雇用が増えたとか、アルバイトの時給が増えたとか、そういったリアリティの感じられる変化に敏感に反応します。だから、横田さんのユニクロ潜入取材にも、ネットユーザーは大いに関心を持っているのではないかと思います。
横田 若い世代の話を聞くと、夫婦共働きで暮らしていても、非正規雇用だと本当に爪に火を灯すような生活をしているケースもいっぱいあるので、取材をしていて胸が痛くなりますね。ユニクロでも、地域正社員は年収200~300万円程度ですから。
佐々木 夫婦で稼いでも、世帯年収が400万円ぐらい。かつては共働きなら600万円は超えると言われていた時代がありましたが……。
かつて入社した早慶卒の社員たちは……
横田 しかも、半年契約であるとか、雇用形態も昔と比べると変わってきている。十数年前にアマゾンの物流倉庫で働いた潜入ルポを書きましたが、最近は明らかに関心の度合いが高まっています。読者にとって身近な存在が「こんなに苦労しているんだ」という感覚もあるんでしょうね、ユニクロやヤマトに関しては。
佐々木 「ブラック企業」という言葉が一般化したのも、その間の変化ですね。
横田 ユニクロって、僕が『ユニクロ帝国の光と影』を書いたときに、けっこう有名な大学からも新卒を採用していたんですよ。早慶からもたくさん入っていましたね。ただ、1年で使い捨てられた店長とか、何年もやっているけど店長になれない若者とか、どんどんドロップアウトしていった。「世界に羽ばたくユニクロ」のようなリクルーティングをやっていましたけれど、実際には海外で活躍できるのは“上澄み”のほんのわずかな人たちの話。上海やパリ、ニューヨーク店のオープニングに立ち会ったといった類いの話が喧伝されていたわけですけど、その前の下積みの長さといったら……。
佐々木 「グローバルリーダーを求む」といった見せ方をしていましたね。もちろん、外資のコンサル会社から転職してきて、グローバル人材として経営基幹に携わっている人はいるけど、ほんの一握りしかいないわけですよね。ほとんどの人は、そんな「グローバルな業務」には関係なくて、毎日毎日、ひたすら店舗で作業をしているという。これって可視化されていない、「見えない」存在なんです。
横田 確かに表からは見えてきませんね。