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娘の洋服を脱がせようとするとすごく怒る

 そして、さらに家族を困らせているのは、野崎さんが奥さんや娘さんの洋服まで着てしまうということ。娘さんのレースの上着をピチピチに着ていたときなどは、奥さんも娘さんも開いた口が塞がらず落胆してしまったそうだ。こんな状態がもう毎日のように続いている。

「娘の洋服を脱がせようとするとね、お父さんすごく怒るんです」と語る奥さんの文章には、疲労感が漂っていた。 

写真はイメージです ©iStock.com

収集癖もそんな性癖もなかったはずなのに…

 私は、野崎さんがデイサービスへ行くときの写真にも目をやってみた。奥さんが準備した男物の服をきちんと着ていたものの、何か違和感を感じた。

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 そこで、「お父さん、お腹に何か入れていませんか?」と尋ねてみた。野崎さんはとてもスリムな体型なのに、お腹だけが異様にぽっこりしていたのだ。

 私の問いに対して奥さんは、「実はね、お腹の中に女性もののショーツや髪留め、アームカバーを隠し入れてデイサービスに行こうとしていたんです」という答えが返ってきた。「迎えに来てくれたスタッフさんが見かねて、『他の人が見るとほしがるといけないから、家に置いていきましょうね』と言ってくださったので、その場は収まったのですが、もう主人が何を考えているのか私には分からなくて。1日に何度も洋服を引っ張り出してきては部屋の真ん中に集めていくんです。収集癖もそんな性癖もなかったはずなのに」と奥さんは嘆くばかりだった。

 大事な人が何を考えているのか分からない。これは認知症の家族を介護する上で立ちはだかる大きな壁である。

 そこで私は「お父さんに、何を探しているの? と聞いたことはありますか?」と尋ねると、予想通りの答えが返ってきた。

「それは聞いたことはなかったですね。もう、何をやっているんだろう、という目で見ていたので、何かを探しているという視点で考えたことはありませんでした」と、びっくりした様子で返事が来た。