2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は隣国ウクライナに突如として軍を派遣した。世界中が戦慄した大国による「侵攻」が始まって、今日で1年が経つ。

 当初はウクライナの劣勢が伝えられた。間もなく首都キーウをロシア軍が占領し、全土がロシアのものとなる――メディアは暗い未来を喧伝し、各国指導者もすでに戦後を考えていたかもしれない。しかし、1年経った今もゼレンスキー大統領のもとウクライナの懸命な抵抗が続いている。計算の狂ったプーチンの戦争はまだ終わりが見えない。

 齢60を超えてなお現役の報道カメラマンとして世界を飛び回る宮嶋茂樹さんは、ウクライナで続く戦争を自身最後の“戦場”と見定め、幾度となく現地に足を運んできた。不肖・宮嶋がこの1年で見たウクライナ戦争の数々の真実を、全5回に選りすぐり、あらためて再公開する。(初出:2022年3月10日。年齢・肩書は当時のまま。全5回の第5回)

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 不肖・宮嶋、最後の戦場取材へ――。

 数々のスクープ写真で知られる報道カメラマンの宮嶋茂樹さん(60)。これまでにイラク、北朝鮮、アフガニスタン、コソボなど海外取材を数多く経験し、あまたのスクープ写真を世に問うてきた。そんな不肖・宮嶋がロシアの軍事侵攻に揺れるウクライナへ。混乱する現地で見えてきた「戦争の真実」とは?

 4月12日、不肖・宮嶋は首都キーウから西へ80キロほど離れた街マカリフへ。そこで見たのは「ウクライナの忠犬ハチ公」と言われる、1匹の秋田犬の姿だった。

「ウクライナの忠犬ハチ公」と紹介された秋田犬リーニア

 不肖・宮嶋これほどカメラマンの無力、無能を痛感したことはなかったであろう。ついさっきである。

「ペンは剣より強いか知らんがカメラはペンより絶対強い」

 なんぞおこがましいことこいた自分がはずかしい。あれほど日本の大新聞、大テレビ局の弱気を嘲いながら、おのれは犬一匹連れ帰る勇気も持ち合わせていないのである。

ウクライナの忠犬ハチ公と紹介された秋田犬のリーニア 撮影・宮嶋茂樹

 ここから先は犬好きのかたは読まないほうがいいかもしれない。「ウクライナの忠犬ハチ公」とインターネットで紹介された、あまりに残酷、そして哀れな本当の話である。これは取材しないほうがよかった。なんでほいほいマカリフまででかけてしもうたんであろう。不肖・宮嶋、後悔至極である。

 この犬の名は「リーニア」メス、9歳、血統は秋田犬である。飼い主はキーウから西80キロあたりに位置するマカリフという小さな町に住む、もとい住んでいた主婦、タチアナさん。母上はロシア人でご主人を2年前に新型コロナで亡くされたばかりの未亡人でもある。

タチアナさんが殺され、土をかけられ埋められた近所の庭先 撮影・宮嶋茂樹

 そのマカリフ市中心部近くのタチアナさん宅に先月16日、突如町に侵攻してきたロシア軍のなかでも最も性質が悪く残忍だといわれるチェチェン部隊兵士が装甲車ごと自宅塀を破り、侵入。悲鳴をあげたであろうタチアナさんをチェチェン兵士らは近所の空き別荘地に連れて行き、そこで強姦したうえ殺害、遺体はその家の庭先にちょこっと土をかけられ、埋められた。