1ページ目から読む
2/2ページ目

SNS全盛の時代だからこそ

 そんな藤生さんがアスリートへのメディアトレーニングを始めたのは2014年のことだ。駒澤大硬式野球部のOB会で出会った京都外大西高の上羽功晃監督から女子マネージャーのアナウンス指導と「選手も全然声が出えへん」との相談を受け、ボイストレーニングを行うことになった。そこで組んだメニューが現在のメディアトレーニングに発展していくこととなった。

 夫の母校であるつくば秀英や霞ヶ浦(ともに茨城)、鳥羽(京都)、昨年全国優勝を果たした流通経済大学サッカー部(千葉)などの高校・大学や、バレーボール国内トップリーグのVリーグ機構などでも行ってきた。各々の事情や悩みを汲んだ上で、独自のメニューを組んだ。

 1月中旬に訪れた中央学院高校では、いくつかの注意点を伝えた後、試合後インタビューなどの実践を通じた指導を行った。

ADVERTISEMENT

 まずは「表情・姿勢」。まっすぐに立つことや口を開けて話すことは、当たり前のように思えるが、これが意外と難しいため、発声法などを丁寧に指導する。次に「相手が何を求めているか」。例えば試合後のインタビューでは「現在(今の気持ちは?)、過去(場面や試合を振り返って)、未来(次の試合に向けて)」の順で聞かれることが多い。記者やテレビカメラの前で話した経験がほとんどない選手たちにはこれを知っておくだけでも、緊張は大きく和らぐだろう。

 そして最後は最も重要な「言葉遣い・言葉の変換」だ。SNS全盛の時代、1つの発言で多くの味方を作ることもできれば、多くの敵を生む恐れもある。相手への敬意を忘れないことはもちろんのこと、例えば「練習はしんどいです」ではなく、「練習は厳しかったけど、そのおかげで強くなれました」と変換するだけで印象は大きく違う。謙虚は大事だが、本音や自負・自信もコメントにはあっていいと考えている。また、言葉を変えることで選手自身の意識もポジティブなものに変わっていく。

 これらはウグイス嬢だけでなく、ヒーローインタビューなど試合全体の運営もオリックス球団職員として担っていた藤生さんだからできるアドバイスだ。

 藤生さんに依頼をした中央学院高・相馬幸樹監督が「情報の扱い方や自分の言葉で発信することは今の時代にとても大切」とメディアトレーニングの大きな意義を話すように、こうした依頼は年々増えてきている。

試合後インタビューの練習を見守る藤生さん ©高木遊

目標は韓国語の習得!?

 これまで紹介してきた仕事の他にも、野球関係の仕事を行う。東大阪市を拠点とする関西独立リーグの06ブルズで理事も務めている。もともとアナウンスや記録員の手配を請け負っていたことから、球場演出や球団内の仕事も任されるようになった。

 関西に取材に訪れた日は、球団のオーナー企業が行う就職セミナーで「面接の好感度アップセミナー」講師を務め、その合間には同席した球団所属選手と気さくな会話をしたり、悩みを聞くなど母親の横顔ものぞかせた。

 取材の最後にこれからの夢を聞いた。

「個人だけの目標だと韓国でもアナウンスしたくて韓国語を勉強しています(笑)。オリックス時代にパク・チャンホさんにすごくお世話になったので、また会いたいですね。会社としては、生徒が望んでいる舞台でアナウンスさせてあげること。そのためにはライセンス制を作るとか、みんなに公平にチャンスを与えられる仕組みを作りたいです」

 甲子園に胸をときめかせた少女時代から変わらず、藤生さんの人生プランニングはこれからも野球一色で染められていく。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2017」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/6094 でHITボタンを押してください。