錆びるにまかされた軍用機やトラック、バス
敷地の中には食糧庫、武器庫、機材置き場だったと思しき倉庫がいくつも並んでいるが、いずれもウクライナ軍の反撃を受け屋根が崩落していた。ビタリーによると、この基地は米軍からウクライナ軍に供与されたハイマース(HIMARS 高機動ロケット砲システム)の集中射撃により一瞬で破壊されたという。破れた麻袋がぶちまける大量の小麦や穀物、大破して放置されたままの車両は、ロシア軍による近隣農家からの略奪の成果であろうか。
中でも一際大きな建物は、車両修理工場であった。ウクライナ軍の放った砲弾が直接命中したのであろう、屋根の半分がガレキとなって崩れ落ち、建屋内には火災の痕跡が残る。修理中だったと思われるロシア軍の装甲車や大小さまざまな軍用車、ウクライナ人から略奪したトラックやバスが錆びるにまかされていた。記録写真や映画で見た、スターリングラードのジェルジンスキー・トラクター工場を思い出した。
「なんやこれ?」プラスチックの地雷?
ガレキを乗り越え、工場の外に出ようとして足が止まった。コンクリの破片に混じって、なにやら見慣れぬ物体が目に入った。なんやこれ? 初めて見るタイプであった。大人の拳大の黒いプラスチック製の球体から臙脂色の信管らしきものが突き出している。
対人地雷に非金属製が多い理由は文春オンライン読者の皆様には説明不要であろう。プラスチック製や木製地雷は金属探知機に探知されにくいというのがいくつかある理由のうちのひとつ。もうひとつ挙げるならば、その殺傷能力の低さゆえである。
一般に、敵により大きな打撃を与えるには、殺すよりも負傷させたほうが効果的だとされる。死亡した兵士はその場に残されるだけだが、たとえば足1本だけ吹き飛ばされて負傷した将兵をそのままにすることはできない。負傷兵を野戦病院に後送するため、少なくとも2人の兵力が削がれる。さらに負傷兵の悲鳴は士気をおおいに下げる効果もある。つまり、殺すよりも負傷させたほうが“人的コスパ”がいいのである。そんな残酷な対人地雷を禁止する条約を日本は批准しているが、ロシアは批准していない。
不肖・宮嶋、対人地雷についてかくのごとき知識しか持ち合わせていないが、このプラスチック製のタイプは初めてお目にかかる。こんなテカテカして目立つ地雷なんぞ役に立つのであろうか。いやいや、相手はあの悪魔が率いるロシア軍である。子供が思わず手に取りたくなるような、反射的に蹴っ飛ばしたくなるような形状、カラーリングをあえてしていることも十分考えられる。
怪しいモンには近づかないのが、有事平時にかかわらず報道カメラマンの常識である。地雷の可能性のある物体の隣を横切るのは止め、大人しく入ってきたルートを後戻りした。