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《不肖・宮嶋、ロシア軍基地に潜入せり》「なんやこれ?」プラスチックの地雷におののき、核兵器マニュアルに憤る…ロシア軍撤退後の秘密基地で戦場カメラマンが見たものとは?

2023/03/01
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真っ暗な旧司令部内に踏み込む

 敷地入口ゲート脇にはコンクリート製の一際頑丈そうな2階建ての事務所があり、これがロシア軍の司令部であった。だがさすがにウクライナ軍の砲弾の直撃に耐えられんかったようで、2階部分は屋根から崩落していた。足を踏み入れた旧司令部内は真っ暗であった。屋外でも爆発物や地雷がゴロゴロしていた元ロシア軍の基地跡である。司令部内部ともなるとワイヤーを張った0秒信管の手榴弾等、ブービートラップが仕掛けられていると考えるのが当然である。フラッシュライト(懐中電灯)で照らしながらおそるおそる中を進む。

 案内してくれたビタリーによると入口右側が居住区、左側がオペレーション・ルーム(作戦室)とのこと。足元を照らしながらおずおず進んだ居住区は、足の踏み場もないほどゴミが散乱していた。アルピニストがクレバスを避けながら頂上を目指すように、なるべく足跡のついたルートを歩く。

これもロシア軍司令部の居住区。奥はウクライナ軍の攻撃で穴が開き日が差し込んでいるが手前の部屋は真っ暗。懐中電灯を頼りに撮影した。もうわざと汚しているとしか思えん ©宮嶋茂樹

 室内には青い星のマークがついたMRE(Meal Ready to Eatつまり携行糧食)の空き箱が目立つ。「政府財産」「転売禁止」とロシア語で書いてあるのはご愛嬌である。MREなんぞはアメリカやろうがロシアやろうがまあ似たようなもんであろうが、違いは食った後に現れるのかもしれん。バグダッドに進駐していた米軍の行儀もあんまし感心せんかったが、ここよりはよっぽどましであった。

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まあロシア版MREというところか。しかし、敵にこちらの兵力の実態などを知られぬためにも、こんなごみは残さないのが近代軍隊の常識だというのに… ©宮嶋茂樹

ロジスティクスに重きを置かないロシア軍

 キーウ郊外、ブチャ市、ボロディアンカ市、ハルキウ郊外のツルクニ村やデルガチ村。一時ロシア軍が占拠していた集落で使用済みMREはさんざん見てきたが、自衛隊の走行しながらでも炊飯できる野外炊具のような装備や車両はロシア軍ではいっかな見たことがない。ひょっとしてロシア軍には屋外炊具のような装備がほとんどないのではないだろうか。それは必然、兵による食糧、食材、燃料を求めての一般民家への押し入り、略奪につながる。

ハルキウ市東部郊外、サリトゥフカ地区。10カ月前と違う点はガラスの代わりベニヤ板が張られたぐらいか。美しい田園地帯が広がるこの地区に子供たちの歓声がもどるのはまだまだ先になりそうである ©宮嶋茂樹

 不肖・宮嶋、2000年にチェチェンでロシア軍に従軍したことがある。モスクワから空軍の輸送機でグロズヌイへ、さらにグロズヌイの空港からヘリで最前線基地に運ばれ、そこでロシア内外の記者やカメラマンとともに基地内の宴に招かれた。普通はメディア、特に外国プレスを呼んだら見栄を張りたがるもんやけど、その宴で出されたのはふかし芋と缶詰ソーセージとピクルス、そしてウォッカであった。ロシアが食糧のロジにはさほど重きを置かず、現地調達つまり略奪を黙認しているフシがあることは当時から垣間見れた。そこらあたりも、食糧自給率140%の祖国で戦い飢え知らずのウクライナ兵とロシア兵の士気の差に繋がるのかもしれない。

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