「安全保障の基本は自給率向上」

 今、食料品の価格が高騰している。ウクライナ戦争による穀物の値上がりや円安の影響を受け、3月の値上げ食品は3442品目にもおよんだ。「物価の優等生」と言われる卵でさえ、過去5年間の平均と比較して25%も値上がりし、頭を抱えている読者も多いだろう。

 ところがそれとは裏腹に、北海道などの酪農家では「生産調整」という名の下に、搾ったばかりの生乳を大量廃棄せざるを得ない状況に追い込まれている。

 また、コメも安値が続いており、農家は政府から「減反」を強いられている。

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 高騰する食料品のために家計が苦しくなる中、こんな不条理がなぜ続いているのか?

 農業経済学の専門家で「安全保障の基本は、食料自給率を上げること」がモットーの鈴木宣弘氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)が、「文藝春秋」4月号に緊急寄稿し、このような事態を放置している政府を厳しく批判している。

鈴木宣弘氏 ©共同通信社

薬殺される子牛たち

 鈴木氏は最新の情報や調査に基づき、酪農家がいかに政府の政策変更に振り回され、悲惨な状況にあるかを紹介する。

〈北海道では牛乳の需要減に対応して、乳牛を「廃用牛」として食肉用に出荷するよう促したが、供給が溢れ廃用牛価格も大幅に下落した。また乳雄子牛の価格の暴落も重なり、値段が付かず薬殺されるケースも続出している。酪農家では女性陣が子牛の面倒を見ることが多く、手塩にかけて育てた子牛が無残に薬殺される場面を見て「耐えられない」と精神的に追い込まれてしまう人も多いという。

 さらに、近年、農水省が推進した「畜産クラスター事業」で補助金を得て、バター不足解消の要請に応えて増産するために、多額の負債を抱えてまで機械や設備を購入した農家もある。ただでさえ借金を背負った上に、輸入飼料の高騰とコロナ禍での牛乳余りが追い打ちをかけた。北海道と千葉の酪農家107戸を対象にした今年はじめの調査では、実にその98%が経営赤字に陥っているとのデータもある。公表はされていないが、ここ数カ月の間だけでも、筆者のもとには数人の酪農家の方が自殺されたとの傷ましい話も入ってきた。ご夫婦で亡くなる場合もある〉