「私と同じだ」と気持ちが昂ったのは絹だけではないだろう。その後に登場するのも『ゴールデンカムイ』(集英社)や『宝石の国』(講談社)、今村夏子の「ピクニック」(ちくま文庫『こちらあみ子』所収)など、知る人ぞ知るというほど隠れてはいないが、知っている側を妙に疼かせる顔ぶれの作品たちだ。
それらは観客の記憶のひきだしを開き、奥底にしまっていた当時の思い出をむくむくと甦らせ、主人公たちとシンクロさせる。苦い恋の記憶を抱えていた観客たちは、麦たちの5年間と同じように、それらを美しい思い出へと昇華する。そんな“鑑賞”の枠を超えた唯一無二の劇場体験が大ヒットへと導いた。
視聴者に投げかけられる「難問」
『ブラッシュアップライフ』も実在のカルチャーが、あーちんと視聴者を繋ぐ共通言語になっている。地元に大きなアミューズメント施設ができて嬉しかった頃、レミオロメンの「粉雪」をよく耳にしていた頃、『家売るオンナ』(日本テレビ系)を見ていた頃……ドラマで描かれていたどこかの景色が、視聴者それぞれの人生にもあり、それぞれのあの頃を彷彿とさせる。
人生を周回する奇妙な主人公の物語を眺めていただけのはずが、いつのまにか視聴者も自分の人生と重ね合わせ、あーちんと同じように「人生とはなにか」を考えつづけてきたのではないだろうか。
あらためて、良い人生とはなにか。あーちんのように仕事に勤しむのも良し、まりりんのように誰かのために生きてみるのも良し。河口さんのようにいまの人生が至高だと感じている人もいるかもしれない。この難問に対しての“正解”はなかなか出そうにないが、あーちんの結末を見届けた後の私たちは、私たちなりの答えに辿りつくはずだ。
とにもかくにも、私は最初からずっとみーぽん(木南晴夏)の運転シーンが気がかりでならない。願わくば、飛行機事故を回避した4人が仲を取り戻して、勝利のパスタを食べたのち、超ハイテク老人ホームに入居するくらいまで長生きしてほしいと、切に祈るばかりだ。……いや、勝利のパスタってなに⁉