『花束みたいな恋をした』『アンダードッグ』『37セカンズ』『佐々木、イン、マイマイン』昨年から今年にかけて映画賞を受けたり、あるいは大きな話題と高い評価を得たこれらの日本映画には、あるひとつの共通点がある。
邦画好きには簡単な謎かけかもしれない。助演女優としての萩原みのりの出演である。
映画ファンから信頼の厚いライムスター宇多丸の年末のラジオ番組では、2020年を振り返る特集の中で今年のベスト助演女優として萩原みのりの名前が上がり、映画好きのリスナーからも納得の声がSNSに寄せられた。
この3月に24歳になったばかりの年齢は、日本映画の新星、期待の新人と呼ばれていい若さだ。だが萩原みのりは、すでに10代のころから何年も日本映画やドラマを助演として支えてきた役者である。
「すごく芝居の上手い子がいる」事務所の壁をこえて紹介
今からもう5年以上も前に撮影された、『正しいバスの見分けかた』という短編映画がある。ブレイク前の中条あやみを主演に迎え、脚本と監督は同世代の高橋名月が弱冠18歳でつとめた、わずか25分の短編だ。撮影から4年を経て2019年に劇場公開された時に高橋名月監督が語ったところによれば、監督は主演の中条あやみのマネージャーから「別の事務所だけど、すごく芝居の上手い子がいる」と萩原みのりを紹介されたのだという。
事務所の壁をこえて紹介されたのは、単に能力の高さが知られていただけではなく、主演女優や作品を光らせてくれるという周囲からの信頼を、当時まだ10代の萩原みのりが獲得していたからなのだろう。
そして現在、Amazon PrimeやHuluほかで配信されている『正しいバスの見分けかた』を見返すと、実際に萩原みのりがその期待に応えているのがわかる。大阪府出身の中条あやみに合わせて急造の大阪弁をみごとに操り、静かに流れる映画のリズムを作り出す演技を見せる萩原みのりは、この短編の屋台骨を支えている。
同時期に放送されたテレビドラマ『表参道高校合唱部!』(TBS)をはじめ多くの作品でも、彼女はバイプレイヤーとして主演女優を支えるみごとな演技を見せてきた。2020年公開の映画『転がるビー玉』は、元欅坂46の今泉佑唯、そして吉川愛という既に知名度のあるスターと3人でトリプル主演をつとめた作品だが、その中で萩原みのりは唯一人オーディションで選ばれ、映画の中でも重い深刻なパートを演じたり、2人の自由なアドリブを受け止めたりという難しい演技をこなしている。
いわば萩原みのりは、その演技力を買われて主演女優の援護射撃に映画から映画を渡り歩く、「傭兵女優」として女優人生を送ってきたのだ。