OLたちの日常が淡々と描写されたドラマの中に、一箇所だけ強烈な違和感がある。それは主人公のOL「私」に扮しているのがバカリズム。つまり、男性なのだ。性同一性障害などの設定があるわけではない。ただ彼が女性を淡々と演じているのだ。
このドラマは、「架空升野日記」というブログを書籍化した同名作品が原作。それはバカリズムが、OLになりきってブログを更新するというちょっとどうかしているものだった。彼がコンビを解消してピン芸人となった直後の二〇〇六年から開始された。ピン芸人としての生き方を模索していた頃のものだ。それがまさかドラマ化されるとは本人すら思ってもみなかったのではないか。しかも、自分が主演して。バカリズムは脚本も担当。これでなんと3クール連続の連ドラ脚本だ。本職の脚本家でもあり得ないほどの驚異的なペースだ。
バカリズムが女性を扱ったコントといえば「女子と女子」というものがある。「女子力が高くなりたーい」「全然モテないのー」と自意識と自己顕示欲だけが充満する中身のない女子トークのあるあるを悪意たっぷりにデフォルメしたものだ。だが、このドラマにおけるバカリズムはデフォルメが一切ない。過剰な化粧もせず、下半身こそスカートだが、極端な女装もしていない。上半身だけが映るカットを見ると紛れもなく男だ。だが、他のOLたちに囲まれて女子トークに花を咲かせる姿は完全に女子。いつの間にか違和感がなくなってしまうから不思議だ。「~だわ」といった創作物特有の女性口調は使わないし、旅行の計画を話しているうちに上司の悪口になったり、「ノー残業デー」を「ノー残」と呼んだり、三人でスポーツジムに行ったらひとりだけマジなメニューをやり始めたり、体重計に乗るように勧められて「無理無理無理」と拒否したり、昼休みになるとやっぱり上司の悪口を言い合ったり、それがやたら口が悪かったり……と、嫌になるほどリアル。特段の事件が起こるわけでもなく、大きなオチもない。半身浴と全身浴を間違えているらしい後輩にも心の中でツッコむだけ。普通の日常だ。けれど、それが悪意に満ちデフォルメされたコントとはまた一味違う角度から鋭い女性批評になっている。
バカリズムは普通の顔をしたまま狂っている。安易に「天才」と言うのは憚(はばか)られるが、これを「天才」と呼ばずなんと呼べばいいのだろうか。
▼『架空OL日記』
日テレ 土 27:00~27:30 放送時間は変動するので注意