四月スタートのドラマで、断トツぶっちぎりの注目を集めている『やすらぎの郷』だが、依然として絶好調だ。
八千草薫さんの可憐さ、加賀まりこの色褪せぬキュートな小悪魔っぷり、そして往年の大女優らしい世間知らずの浅丘ルリ子。そんなテンション高めの女優さんたちをクールに受けとめる石坂浩二が、ともすれば暴走しがちなドラマを引き締める。
五月第二週はかつての任侠映画スター、高井秀次(藤竜也)が新たな入居者になったことで、施設内はちょっとした狂騒状態に陥った。寡黙な秀さんが漂わせるフェロモンに発情する元女優たちは、美容院に殺到する。
思いがけず、秀さんの訪問を受けた脚本家の菊村栄(石坂浩二)は、無口な秀さんを前に、ペラペラ喋るしかなくて、自己嫌悪が募って疲労困憊となる。翌朝六時、彼だけ安否確認がとれない。
男性スタッフが「先生!」とコテージのドアを叩くが応答はない。マヤ(加賀まりこ)は「やだ、心臓止まっちゃったの?」。窓を叩き割り職員が入ると、菊村は昨夜の疲れで熟睡していただけ。マロ(ミッキー・カーチス)は「何だ、生きてんのか。つまんねえ」。もう大笑いだ。
完璧なセキュリティというわりに、職員は間抜けだ。間違った鍵を持ってきたため、ガムテープを窓に貼って小石で割り、空き巣の要領で入ったのだ。そうだ、この施設は犯罪歴ある人間を更生のために採用していたんだな。
かつてテレビと映画の黄金時代に貢献した人間だけが居住できる「やすらぎの郷」の住民も多くが八十歳以上。死とはつねに隣り合わせだ。といってウツとは縁遠く、大スターだった人間に備わるタフさゆえか、すぐ近くまで迫った死を楽しむ気配もある。
施設内にあるバーやコテージで、菊村が入居者と二人で会話を交わすシーンが多い。平板に流れる回もあるが、石坂がリードする会話劇は、ときに情感たっぷりに、ときに哄笑を誘いながら進んで、さすが台詞まわしが光る。
いまの老人は昔と違う。枯れることない、生臭い欲望の持ち主だ。「どうせふしだらな女ですよぉ」と、あっさり肯定する加賀まりこや浅丘ルリ子たち女性は強い。それと比べてどこか格好つけちゃうインテリ脚本家の石坂浩二。この対照の妙も味がある。
死と笑い、そして諦観が同居するドラマは、いま若い視聴者まで惹きつけている。
▼『やすらぎの郷』
テレビ朝日 月~金 12:30~12:50