生涯で2人に1人がかかると言われる「がん」。でも、知っているようで、知らないことも多いのではないでしょうか。そこでジャーナリストの鳥集徹さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。参考文献として信頼できるサイトのリンクも紹介しています。いざというときに備えて、知識を蓄えておきましょう。
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A10 現時点では困難だと思われます。
抗がん剤と言えば「副作用がきつい」というイメージを持っている人が多いはずです。実際によく使われる「化学療法剤」では、髪の毛が抜ける、吐き気を催す、口内炎になる、皮膚や発疹やかゆみが出る、手足がしびれる、白血球が減り感染しやすくなるといった副作用があります。
なぜ、そんな副作用が出るのでしょうか。それは細胞の分裂や増殖を阻止することで効果を発揮する抗がん剤が多いからです。がん細胞だけでなく、毛根、皮膚、粘膜、血液をつくっている骨髄の細胞なども、活発に分裂・増殖しています。そのため、こうした細胞のある部位に関連した副作用が出やすいのです。
抗がん剤には、がん細胞が多く持つ特定の分子をターゲットに作用するようつくられた「分子標的薬」という薬もあります。2002年に「ゲフィチニブ(商品名イレッサ)」という薬が初登場した際には、がん細胞だけを狙い撃ちするとされ、副作用も少ないと期待されました。
ところが「間質性肺炎」という重篤な副作用が多発してたくさんの患者が亡くなり、薬害裁判にまで発展しました。副作用が少ないはずだったのに、なぜ期待通りにならなかったのか。それは正常な臓器の中にも、薬のターゲットとなる分子を多く持つ細胞があるからです。ゲフィチニブの場合、間質性肺炎だけでなく、発疹、肝障害、下痢といった副作用も報告されています。
抗がん剤にはもう一つ「免疫チェックポイント阻害薬」という種類もあります。がん細胞は免疫細胞の攻撃から身を守る仕組みを持っています。この仕組みを解除して、免疫細胞ががん細胞に攻撃をしかけるよう仕向けるのがこの薬です。2014年に「ニボルマブ(商品名オプジーボ)」という新薬が登場し、肺がんなどで長期延命する患者が出てきた一方で、非常に高額なことが問題となり、マスコミでもよく取り上げられました。
患者本人の免疫の力を利用するので、副作用が少ないと思うかもしれません。しかし、全身のだるさや、皮膚の発疹やかゆみ、吐き気、下痢などの他、まれですが重篤な副作用として、間質性肺炎、Ⅰ型糖尿病、肝機能障害、甲状腺機能障害などが報告されています。こうした副作用は、免疫が暴走して正常な細胞を攻撃するために起こるとされています。
このように、抗がん剤治療を受ける限り、副作用は覚悟する必要があると言えるでしょう。ただ、かつてに比べて吐き気や感染などを軽減する「支持療法」が進歩し、副作用が軽くすむ人が増えました。入院せずに日常生活や仕事を続けながら、外来で抗がん剤治療を受けることもできます。抗がん剤治療を受けるなら、副作用への対処法なども理解しておくことが大切だと言えるでしょう。
【参考】国立がん研究センターがん情報サービス「薬物療法(抗がん剤治療)のことを知る」