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ラーメン屋に魅せられ、神社で記念写真…WBCオーストラリア代表を府中の街が支えている

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 3月の府中けやき並木通りをてくてく歩く。目指すは府中市民球場、都市対抗や高校野球の東京都予選でなじみ深い球場だ。

 府中のけやき並木を見ると僕はいつも中大の友達のことを思い出す。僕らは中大が多摩へ移転した元年の入学で、大学周辺に多摩動物公園目当てのドライブイン程度しかない環境に頭がくらくらした。地方からやってきた学生は大学近くのアパート暮らしになるのだが、朝、通学路をイノシシが走るのを見て「自分の田舎より田舎だ!」「中央大学のくせに何で中央にないんだ!」と憤慨していた。まぁ、移転前の神田駿河台がまさにそうなのだが、僕らは「学生街」に憧れていた。

 で、大学3年くらいになるとみんな、日野市や八王子市の畑の真ん中に建てられたアパートを出て、聖蹟桜ヶ丘や府中に「都会らしさ」を求めて引っ越すのだ。といって府中より新宿寄り(イメージ的には下高井戸とか笹塚とか)へ進出する者は稀だった。新宿が近くなるにつれ家賃も高くなるのだが、それ以上に「心理的なバリアがある」とのことだった。その点、府中は大丈夫だという。地方出身の大学生にやさしかったのだ。人気があった。このけやき並木を歩きながら、友達が当時「オレ、ずっと府中に住みたい」と言ったのを思い出す。あいつはどこにいるのか。もう、何十年も前のことだ。

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府中けやき並木通りのバナー ©えのきどいちろう

僕がオーストラリア代表にしびれたきっかけ

 並木通りにバナーが掲示されていた。「郷土の森 梅まつり」と「Welcome to Fuchu! AUSTRALIA 野球オーストラリア代表がやってくる! 府中市」。

 そうなのだ、府中はWBCオーストラリア代表の事前キャンプ地なのだ。1次ラウンド、プールBの同組、オーストラリア代表は2月23日~3月4日の期間、府中市内で事前キャンプを実施し、練習試合を公開したほか、地元小・中学生と野球クリニックで交流を持った。僕は(無料公開された)練習試合へいそいそ出かけていくところだ。この日は社会人のJPアセット証券戦。

 けやき並木通りを左に折れ、府中市民球場のスコアボードの脇を抜けて、入場ゲートへまわり込む。同じWBC代表でも「侍ジャパン」とオーストラリア代表は期待度も注目のされ方も違う。今だって公式ウエア姿のオーストラリア人が球場の外に出てケータイで話し込んでいる。見た感じがものすごく草野球っぽい。

府中市民球場 ©えのきどいちろう

 入口でボランティアの女性から選手一覧表、応援の千社札シールをもらって球場のなかへ。

入口でもらった千社札シール ©えのきどいちろう

 僕はオーストラリア代表が来日してから、SNSを通じて彼らの動向を注視してきた。大国魂神社の鳥居のところで記念写真を撮っていた。あと駅前のラーメン屋に魅せられ、みんなで通ってるらしかった。ABL(オーストラリアン・ベースボール・リーグ)の選手中心に編成されたチームだが、親しみが持てる。ABLというと、僕のようなファイターズファンにとっては陽岱鋼や杉谷拳士が世話になった海外リーグだ。こんな気のいい連中がいるところでダイカンもケンシもやってたのか。

 僕がオーストラリア代表にしびれたきっかけはARAさんのツイートだ。ARAさんは尊敬すべき野球通アカウントで、僕はいつも多くを学んでいる。2月26日の投稿だからオーストラリア代表が公開練習をした日だと思う。

「アウェイ対策か、鳴り物応援の紅を流してシート打撃を行うオーストラリア代表」(ARAさんのツイートより)

 というのが動画つきでTLに来た。爆笑した。なるほどX JAPANの『紅』応援を府中市民球場に響かせてシート打撃を行なっている。東京ドームではこの種の応援にさらされ野球をやるのだから、今のうちに慣れておけということか。こりゃ敵将は日本の野球文化に精通しているぞと唸ったものだ。それもそのはず、オーストラリア代表監督のデービッド・ニルソン氏はかつて「ディンゴ」の登録名で中日に所属した選手だった。

 他にはBCリーグ新潟やオリックス育成でプレーしたダリル・ジョージがいる。駅前のラーメン店にチームメイトを連れていったのはジョージなのだそうだ。

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