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「あの言葉を言うウェイモンドは、愛する者といたいと願う1人の男なんです」

――彼は妻に「人生にどんな可能性があろうと、僕は君との人生を選ぶよ」と言いますね。それは、ニーチェが言った「永遠回帰」ですか? 何度人生を生き直しても、この人生を肯定する、という意味で。

クワン なるほど。永遠回帰を持ってくるとは。僕らは意図してなかったけど、わかります。光栄です。でも、ウェイモンドの言葉は、とっても単純で美しい気持ちからです。人生のあらゆる可能性より君を選ぶという。僕らは時々、哲学的になったり、頭でっかちになったり、ややこしくしすぎたりするけど、大切なのは、いつだって、いちばん単純な考えに戻ることだと思います。シンプルな気持ちの核心にね。あの言葉を言うウェイモンドは、愛する者といたいと願う1人の男なんです。

シャイナート この映画を作りながら、僕らがいつも気をつけていたのは、クンフー・ファイトやマルチバースやブラックホールで話を宇宙全体に広げながらも、いつだってシンプルな家族愛の物語から離れないようにすることでした。

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――時空を超えた壮大なスケールの物語が、母の娘への愛に収斂していくのを観ていて、『メッセージ』(16)という映画を思い出しました。テッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」が原作の。

クワン 僕らはテッド・チャンの大ファンなんです! 「あなたの人生の物語」は「感覚は言語に影響される」というセオリーを「時制のない言語を習得した者が過去現在未来を同時に感じる」というスケールに拡大しました。

シャイナート チャンはアイデアを崖っぷちのはるか先にまで推し進めるんですよ。

クワン たとえばテッド・チャンに「理解」という短編があります。その注釈でチャンは、カミュの『異邦人』について書いています。『異邦人』の主人公は何を見ても、そこに意味を見出せない。そしてチャンは考えた。逆に、何を見ても意味を見出すことができるキャラクターはどうだろう? そのアイデアを「理解」でチャンは極限まで推し進めます。

シャイナート どんな物を見ても、その構造から世界における機能まですべてを完全に理解できるようになった者が最終的にどうなるかを書き尽くしています。僕らは『エブリシング~』を作る時、テッド・チャンみたいにしようと決めたんです。ただのマルチバースの話にはしない、と。

クワン ある人が同時に別の場所に存在することが可能だったら、という単純なアイデアを、あらゆる場所に存在するところまで拡大したんです。