漫画家・峰なゆかさんは異色の経歴を持つ。19歳のときに『恋のから騒ぎ』元メンバーという肩書でアダルトビデオに初出演。それから5年間にわたり、AV女優の格付け最上位である「単体女優」として活動してきた。
『AV女優ちゃん』(扶桑社)は、そんな峰さんの体験を通して2000年代の業界の実態を写し出す半自伝的な作品だ。物語は少女時代までさかのぼる。「ドブ」というあだ名で呼ばれた冴えない中学時代を過ごし、「世間では最も女としての価値が高いとされる女子高生時代に一発キメ」ようと決意するのだが――。
「『AV女優ちゃん』は、2019年の秋に前作『アラサーちゃん』が終わった翌週から連載が始まり、その後、峰さんの出産で休載を挟みつつ、現在も連載中の作品です。引退から時間が経つと、AV女優という過去のキャリアからは距離を置かれる方もいると思うのですが、むしろ10年経って改めて真っ向から取り組んでいるのがすごいと思います。外側から勝手なイメージを押し付けられがちな職業ですが、峰さんは自身の過去と向き合いながら、当事者として血の通った実感を描いている。“自伝的な作品を”とリクエストして始まった連載でしたが、ここまで深層に迫る物語になるとは嬉しい誤算でした」(担当編集者の牧野早菜生さん)
出演強要を告発した女優の「意外な決断」
本作で語られるのは著者自身の人生のみにとどまらない。他の女優仲間は、なぜ出演に至ったのか。実父から性的虐待を受けていた「黒ギャルちゃん」、交通事故で左手の小指を失った「痴女さん」など、彼女たちをとりまく家庭環境や人間関係を深く掘り下げていくと、十人十色の「理由」が浮かび上がってくる。
最新刊の4巻では、出演強要を告発する「爆乳ちゃん」のエピソードが大きな話題を呼んだ。とある成り行きから告発することになった爆乳ちゃんは、同業者からの強い風当たりに打ちのめされる。一方で、彼女を支援する人権派弁護士は、AV女優という職業を「不幸」と決めつけ、無自覚の見下しをにじませる。外野ばかりが盛り上がり蚊帳の外に置かれた爆乳ちゃんは、悩んだ末に、意外な決断を下す。
「彼女の決断は手放しに賞賛されるものではなく、人によっては馬鹿じゃないのかと思うかもしれません。でも、出演強要を受けた事実を自覚したものの、AV業界にしか自分の居場所がないという現実を見据えたうえでの選択です。実際に一度辞めてまた戻って来る人も少なくないらしく、そういった業界のリアルも反映されています」(同前)
『週刊SPA!』で連載されている本作には、女性読者から大きな反響があるという。
「AV業界が舞台ではありますが、峰さんが描いているのは、多くの女性が日々生活するなかで直面する性的な搾取や自己決定の難しさ、貧困など、普遍的な問題や生きづらさです。特殊な世界の特殊な話としてではなく、自分と地続きの物語として読んでいただけたら嬉しいです」(同前)
既刊4巻、シリーズ累計11万5000部(電子含む)