漫画のようだ。
でもこんな出来すぎた話は、漫画ならば絶対、ボツになってしまうはずである。それほど出来過ぎた、現実離れしたストーリーが、世界一を決めるフロリダの舞台で実現してしまった。
大谷翔平とマイク・トラウト。
二刀流で米大リーグに旋風を巻き起こすスーパースターの大谷。一方のトラウトは、攻守のファイブツールを揃えたメジャー最高のプレーヤーと評されてきた、トップ中のトップの選手だ。しかも2人は同じロサンゼルス・エンゼルスに所属し、レギュラーシーズンでは絶対に対決することはない。そんな2人が、国を背負って最後の最後に直接対決を演じたのである。
大谷「ランナー無しで迎えられれば1番いいなと…」
3対2と日本が1点をリードした9回だ。あと3つのアウトを取れば、悲願の世界一奪回を実現できる。
「(ブルペンで肩を)作っている段階で、(最後にトラウトに打順が)回ってくるんじゃないかなと。先頭バッターと2人目を抑えて、ランナー無しで迎えられれば一番いいなと思っていたんですけど……」
慣れないリリーフ、しかも世界一をかけたクローザーでの登板ということもあったのか、大谷はいきなり先頭打者に四球を与えて、そんな思惑は消えてしまうかに思えた。ただ、ため息がグラウンドを包んだ次の瞬間だ。大谷が続く1番のムーキー・ベッツ外野手を二ゴロ併殺に抑えて、運命はやはり2人の対決でこの舞台の幕を閉じることを求めた。
大きく息を吸って右打席に入ったトラウトに対して、初球のスライダーが外れる。しかし大谷は160km台を連発して力で押し込んで勝負はフルカウントまでもつれた。そしてフィニッシュは得意のスライダーだった。