歯科医になるか、あきらめて無職になるか
「鶴見大学は『国家試験を受けられない6年生=全員留年』でしたが、朝日大学はちょっと異なり、彼らはいわゆる“卒業延期”という扱いになる。もちろん普通に留年する6年生はいますが、可哀そうなのは『卒業見込みのはずなのに、国試には受かりそうにない学生たち』。彼らは強制的に留年させられることはありませんが、春以降に遅れて卒業証書を渡され、翌年に『既卒者』として国試を受ける形にさせられます。見せかけの新卒合格率を高めたい大学側によって、彼らは巧妙にその年の『卒業者』から外されてしまうわけです。学生たちの間では“裏卒業”などとも呼ばれています。“裏卒業者”の中には歯科医になることを諦めたり、別の大学に入り直す人も稀にいますが、高い学費を6年間支払っているので、多くの学生は既卒になって何度でも国試を受け直す。歯科医になるか、あきらめて無職になるか歯学部に入ったら、事実上、この2つの選択肢しかないのです」(同前)
朝日大学の場合、新卒合格率は86%だが、既卒合格率になると25%まで下がる(2022年度)。これは全国で2番目に低い数値だ。
歯科医師を巡っては「医師のレベルを高く保つために国試の合格ラインを厳しくすべき」という意見に一理あるのは確か。ただ、大学側が新卒合格率を高く見せるため、国試合格を半ば卒業の条件とすることで、学生たちは“歯科医師以外の進路”——例えば新卒で一般企業に入社することなど——が閉ざされてしまうのだ。
朝日大学に質問状を送ったところ、メールで回答があった。「“国試合格率ありき”ではないか」と指摘されている卒業判定の制度については、
〈本学では「歯学教育の質的改善」の一環として、科目ごとに教育目標の明示、講義実施、試験後の学生の理解度評価を行うことで、とくにこの10年の間、教育の質的改善に努めて参りました。その結果として、文部科学省による歯学教育の評価において、国家試験合格率(新卒)、修業年限(6年)での国家試験合格率(編入学者を除く)、在籍学生総数に占める留年・休学者の割合といった項目でも改善を認め、私大平均値を上回っております。
そのなかで卒業試験の精度についても検討を重ねて参りました。(中略)つまり本学の卒業試験に合格すれば、全員が国家試験にも合格するように教育の精度管理を行っていく方針を示しました。もしも誤解をされた方がいらっしゃるようであれば、再度、丁寧に説明責任を果たして参ります〉
と回答した。
しかし、朝日大を巡る問題はそれだけではなかった。わずか3カ月で2人の学生が自ら命を絶つ悲劇が起こっていたのだ。
現在配信中の「週刊文春 電子版」では、〈歯学部留年問題〉を詳しくレポート。また、自殺した2人の学生への大学側の対応、歯学部長や学年指導教員の教授との一問一答など、朝日大学で何が起きているのかを詳報する。
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