今年も、その男の名前は開幕一軍のメンバーにはなかった。
スマホの音声メモの検索欄に「髙山俊」と打ち込む。該当ファイルは1件。「髙山俊インタビュー」のタイトルがついた音声ファイルの日付は、2016年10月14日――。
あの年、髙山俊は輝いていた。そして、その未来にも輝かしい道が待っていると、誰もが信じて疑わなかった。
新人王当確ながら、口をつくのは反省の弁ばかり
2015年ドラフト。明治大の髙山俊は、ドラフト1巡目で阪神タイガースの指名を受けて入団した。1巡目で競合したヤクルト・真中満監督(当時)が当たりクジを勘違いするというドラフト史上に残る珍事件もあって、記憶に残るファンも多いはずだ。
ルーキーイヤー、開幕戦で1番・レフトでスタメン出場を果たすと、第1打席でいきなりプロ初安打を放った。その後もシーズン通してレギュラーとして起用され、134試合で打率.275、8本塁打、65打点。シーズン136安打は球団新人記録(当時)だった。
筆者が髙山をインタビューしたのは、そんなシーズンが終わった直後。秋に発売する雑誌で「2016年、もっとも話題となったルーキー」を取り上げるべく、甲子園球場に足を運んだ。取材時点では発表されていなかったが、この年の新人王獲得はほぼ確実。当時、すでに11年間優勝から遠ざかっていた阪神に久しぶりに現れた大型ルーキーは、一体どんな威勢の良い言葉を発してくれるのか。
ただ、そんな目論見は取材開始直後に打ち砕かれた。シーズンを振り返ってもらおうと数字の話に触れると、髙山の口からは「反省」の言葉ばかりがあふれてきた。
「すべての数字が、中途半端でした」
「もっとやれたんじゃないかと思うことのほうが多い」
鮮烈なデビューを飾ったルーキーとは思えないネガティブな発言が続く中、髙山が饒舌になった話題が「打撃フォーム」についてだった。この年、髙山は新人ながら、シーズン中に打撃フォームの改造に着手していた。プロ野球選手のほとんどは、オフの間に自らのフォームを固め、シーズン中はそれを貫き通す。調子が悪くなれば「フォームが崩れていないか」をチェックし、微調整を重ねて調子の維持に努める。
ただ、髙山は違った。ルーキーでありながら、周囲が納得するような結果を残しながら、それでも更なる高みを目指し、フォームを変えた。
「自分の頭の中には、理想のフォーム、理想のバッティングがあります。あとは、何年かかるか分からないけど、それを体現するために練習するだけです」
この言葉を聞いたとき、私は「髙山は、大丈夫だ」と確信した。プロ1年目でレギュラーを獲っても、球団記録を樹立しても、満足しない。そんな選手だからこそ、きっとこれからもプロの世界で伸びていくはず――。