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「もっとEXILEの陰の部分が観たい」作家・北方謙三が、EXILE橘ケンチに「情念を書け」と勧める理由は?

北方謙三さん、橘ケンチさん特別対談 #2

2023/04/10

source : 別冊文藝春秋

genre : エンタメ, 読書, 音楽, 芸能

note

駄作を書くことを恐れるな

 北方 大丈夫。あなたはね、小説がうまいと思う。あとね、小説には真面目さも愚直さも必要なんですよ。自分の気質を大事にしながら、あとは飛ぶ練習をすればいい。

 それから通俗も大事。人間みんな通俗なんだから、通俗をバカにしちゃいけない。通俗をずっと続けていくと、通俗じゃないものが出てきます。つまり、最初から肩を怒らせて「よし、傑作を書こう」なんて思わないで、通俗的でもいいから書いて書いて、書き続けていくと、あるとき無数の駄作のなかから傑作が書けてしまうんですよ。だから駄作を書くことを恐れず、これからも橘さんには書き続けていただきたいです。

 ありがとうございます。僕も、もうちょっと続けたらもっと感覚がつかめるかもしれないという予感があります。このタイミングで北方さんにお目にかかれて本当に良かったです。一作書き終えた達成感と、でもまだ足りない、もっと書けるようになりたいっていう気持ちと、いろんな気持ちが入り乱れていたので。

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©文藝春秋

北方 だいたいね、あれだけの枚数(※単行本で330ページ)を書き切る粘り腰、それ自体才能ですよ。あとは噓をつく快感をどこかでクッとつかんでしまえば、ガラッと世界が変わると思うな。

 最初の一冊はいちばん大事だし、いちばん苦しい。だけど、橘さんに書き続ける力があることは、『パーマネント・ブルー』が証明しています。もう一回完走しちゃったんだから、フルマラソンぐらい普通に走れるようになりますよ。

 ありがとうございます。そうなりたいです。北方さんは、最近ますます小説にのめり込んでいらっしゃるそうですね。先日は、直木賞選考委員の退任も発表されて。僕が北方さんにお目にかかるきっかけになった『チンギス紀』、あの歴史巨篇もついに完結と聞きました。

北方 そう、もう最終回は書き上げて渡してあるよ。だいぶ身軽になって、やっと最後の長篇に取り掛かれる状況になってきた。どうしても書きたい長篇なんだ。

©文藝春秋

 すごい、ぞくぞくしますね。何をお書きになるんでしょう。

北方 内緒だよ! こういうのは、書く前に口にしちゃうとよくないからね。

 失礼しました。じゃあ、小説の描写についてなんですが……。

北方 まだ何か訊きたいことがあるの?(笑) 

 山ほどありますよ。

北方 真面目だねえ、本当に(笑)。じゃあ、続きは飯食いながら、オフレコで、な!

写真撮影=佐藤亘/文藝春秋

北方謙三(きたかた・けんぞう) 1947年、佐賀県生まれ。81年の『弔鐘はるかなり』で脚光を浴び、83年『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞受賞。84年『檻』で日本冒険小説協会大賞受賞。85年『渇きの街』で日本推理作家協会賞受賞。91年『破軍の星』で柴田錬三郎賞受賞。2005年『水滸伝』全19巻で司馬遼太郎賞受賞。07年『独り群せず』で舟橋聖一文学賞受賞。10年日本ミステリー文学大賞受賞。11年『楊令伝』全15巻で毎日出版文化賞特別賞受賞。13年紫綬褒章受章。16年「大水滸伝」シリーズ全51巻で菊池寛賞受賞。20年旭日小綬章受章。最新作『チンギス紀』16巻『蒼氓』が23年3月に発売になった。

橘ケンチ(たちばな・けんち) EXILE及びEXILE THE SECONDパフォーマー。読書家で知られ、2017年、EXILE mobile内に「たちばな書店」設立。23年2月、初小説『パーマネント・ブルー』(文藝春秋)刊行。また、19年に舞台『魍魎の匣』主演、23年には明治座ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』に出演するなど役者としても活躍中。

 ライフワークとして日本酒の魅力を発信する活動も精力的に行い、新政酒造との『亜麻猫橘』を皮切りに、様々な注目蔵と多数のコラボ作品も発表。23年には500本超をテイスティングしたレビューをはじめ日本酒の世界を網羅した書籍『橘ケンチの日本酒最強バイブル』(宝島社)も刊行。18年に13代酒サムライ、21年に福井市食のPR大使に就任。23年春よりNHK Eテレ「中国語!ナビ」レギュラー出演決定。現在、EXILE THE SECONDの全国ツアー『EXILE THE SECOND LIVE TOUR 2023 ~Twilight Cinema~』実施中。

パーマネント・ブルー

橘 ケンチ

文藝春秋

2023年2月8日 発売

「もっとEXILEの陰の部分が観たい」作家・北方謙三が、EXILE橘ケンチに「情念を書け」と勧める理由は?

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