初小説『パーマネント・ブルー』が話題のEXILE / EXILE THE SECONDの橘ケンチさん。その橘さんの背中を押したのは、作家の北方謙三さんだったといいます。
先日、直木賞の選考委員も退任され、小説執筆に向けてますます意欲を燃やす北方さんが、いまだからこそ橘ケンチに期待する「噓」と「情念」とは?(全2回の1回目/続きを読む)
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これほど過酷だとは思わなかった
北方 やっと会えたな! コロナで2年ぐらい会えずにいるうちに小説を書きあげたって聞いて、「こちらのテリトリーを侵しやがったな。二度と書きたくなくなるくらい酷評しよう」と思っていたんですよ。俺が橘さんの領域を侵そうと思ったって踊れないのに、ずるいもの(笑)。
橘 そんな!(笑) そもそも僕が小説を書こうと思ったのって、北方さんと最初にお目にかかった時に「あなたは小説書いたほうがいいよ」って言ってくださったからですよ。北方さんは覚えてらっしゃらないかもしれませんが……。
北方 俺、なんでそんな余計なこと言っちゃったんだろ。でもそれで本当に書きあげちゃったんだから、橘さんはすごいと思う。普通の人は書こうと思ったって最後まで書けませんから。しかも、橘さんはすでにダンスという肉体的な表現をお持ちなわけで、それを言葉で表現するって至難の業だと思う。
橘 これまでの人生でいちばん過酷だったと言ってもいいほど大変でした(笑)。ダンスって、自分の思いを表現に乗せやすいんです。でも小説は、自分の感覚と文字の間に距離があるので難しかったですね。どうやったら自分の感覚を文章化できるのか、毎日試行錯誤しながら書いていました。
北方 そうでしょう。はじめて「自分の体験に対して言葉を与える」という作業をされたわけだから。