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電話口で感じた楠本泰史の「本気」…今季のベイスターズはなぜ強いのか

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/04/25
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 同点の9回、ベイスターズは勝ち越しのチャンスの場面で代打、楠本泰史。がんばれ泰史選手、この思い、とどけ!! 私がちんたらとそんなことを思っている間に、彼はあっという間に相手チームの守護神を捉えていた。値千金のタイムリー。その後、山﨑康晃投手が抑えて、見事勝ちを収めたベイスターズ。強い。僅差で勝てる。今年のベイスターズは強い。

 私がこの文章を作成している4月24日の時点で、ベイスターズは単独首位である。もちろん、まだシーズンは始まったばかりで、最後の瞬間にどうなっているかが大切だということは誰もが理解している。それでも、一体いつぶりかの単独首位に心が躍っている人も少なくないはずだ。もちろん、私もその1人である。ただ、『なぜ?』という疑問をすぐ抱いてしまうのが私の性格である。『なぜ』今年のベイスターズは強いのか。そして、その強さの秘訣は、きっと私たちにも同じことが言えるはず。

今のベイスターズの強さの秘訣を考えてみた

 まず第一に、個人の能力が高い。極端に言えば、小学生とプロ野球選手が試合をしても絶対プロ野球選手が勝ちますよね、ということで、個人の能力の高さは強い組織の必須事項だと思う。ただこれは、打って守って走れて、なんでもできるスーパーマンじゃないとダメ、ということではない。求められた場所で輝く能力を持っているか、だ。

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 今年のベイスターズは、求められた場面で能力をしっかり出せる選手が多いように見える。楠本選手が代打で出場し打点をあげ、そのまま勝つという場面が印象に残っているが、この場合楠本選手はもちろんのこと、試合を作った先発投手、勝っている場面で登板しリードを守り切るリリーフ投手、ひいては、楠本選手の前にランナーとして出た打者の方達がそれぞれきちんと仕事をした結果である。

 求められた仕事を当たり前にこなすというのは、見ているほど簡単ではない。それを簡単そうにこなしてしまう選手の皆様には頭が上がらない。私はそれなりに色々な組織に所属したが、野球に関係があろうとなかろうと、いい組織とは各々がそれぞれの場所でいい仕事をしていた。そして、どの組織に所属していた時も、なんでも1人でできてしまうスーパーマンに会ったことはない。

楠本泰史 ©時事通信社

勝ち続けるには、何かを変えていかなくてはいけない

 次に、新しいことへのチャレンジである。変えないことを求められる場合もあるが、それだけでは勝てなくなってしまう。勝ち続けるには、何かを変えていかなくてはいけない。

 私が現役時代にある先輩から聞いた話で、今でも私の人生の指針となっているのだが、それは『毎年のフォームを少し変えている。そうしないと、すぐ対策されて勝てなくなるから。自分の中で変えるもの、変えないもの、しっかり考えてやっている』というものだった。その方はもちろん今でも活躍しているので、かなり説得力があった。

 そしてこれは個人だけではなく、組織にも当てはまることだと思う。1番打者として起用されている佐野恵太選手を見ていると、今年のベイスターズはまさに新しい事にチャレンジしているといっていいはずだ。様々な価値観が目まぐるしく変わっていく現代、私たちにも同じことが言えるのではないか、むしろ変わっていかないと置いていかれるなと思う今日この頃である。

 そして、先程の話とは少々矛盾するようだが、継続し続けるということである。近い意味では、我慢が求められるということ。新しいことにチャレンジして、すぐ結果が出るということはほとんどない。ただそこで、じゃあ次はあれ、次はこれ、とやっていては行き当たりばったりになってしまい、必ず行き止まりがやってくる。そうではなく、計画性と根拠を持って、いずれ来るであろう最高の結果のために、我慢の時間が必要なのだ。

 ベイスターズも今シーズン、序盤に連敗が続き、我慢の時間が続いた。でもファン視点で見たら、新しい戦力、新しい作戦、新しい起用、色々な事にチャレンジしていたと思う。SNSでは心無い声もみられたが、それらを乗り越えて、ようやく今結果として形になり始めている。我慢をすれば必ず結果が出るという話ではなく、見立てがあるのであれば我慢の時間は必ず求められ、それを耐えうる個人や組織は強い。今年のベイスターズはそう感じさせてくれている。

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