気迫で投げる、魂のピッチング――。
その姿はビジターで5連敗したチームを盛り上げ、苦しんだ先発投手陣を奮い立たせてくれるのではないか。そう思わずにはいられなかった。今季ここまでの取り組み、マウンド上での姿、後輩に見せる背中……。全てが頼もしくカッコよかった。
27日に今季初登板初先発のチャンスを掴んだ、プロ10年目の森唯斗投手だ。
開幕2軍スタートとなった森投手だが、ウエスタン・リーグでは3試合に登板し、2勝1敗。防御率0.48と結果を残し、アピールしてきた。
ようやく掴んだ1軍での貴重な登板機会。本拠地で初めて上がるまっさらなマウンドで森投手は躍動した。6回4安打無失点、自己最多95球の熱投だった。4回には連打で無死2、3塁のピンチを迎えたが、気迫溢れる投球と百戦錬磨の経験値で無失点に切り抜けた。球数90球を超えた6回も衰えぬキレッキレの真っ直ぐと変化球で浅村栄斗選手から空振り三振を奪うなど三者凡退。この回を抑えると、試合を締めた時と同じような、いやそれ以上の? 雄叫びのガッツポーズ。その裏、森投手の熱投に応えるように打線が悲願の先制点。栗原陵矢選手がグランドスラムを放った! こんな出来過ぎたドラマがあるだろうか(感涙)。堂々の“先発初勝利”。森投手の一挙手一投足に心震わされ、涙が出てきた。野球の素晴らしさを胸いっぱい感じた最高の勝利だった。
本格転向1年目でのあまりに早い戦線離脱
入団当時は特に『オリャー系』の印象が強いパワフルなリリーバーで、その投げっぷりの良さに魅了された。ルーキーイヤーから「7年連続50試合登板」という球団記録を樹立した鉄腕ユイトは、2018年途中から絶対的守護神デニス・サファテ投手に代わってクローザーを務めた。その年はみるみるセーブを重ね、最多セーブのタイトルも獲得。チームの日本一に大きく貢献した。
ところが、翌年以降は怪我やアクシデントに苦しむこととなった。2019年は右広背筋・大円筋の部分損傷で途中離脱があった。それでも54試合に登板し、35セーブをあげてみせた。怪我もなんのその! 「さすが鉄腕」だと感激した。
しかし、2021年はプロ入り後最少となる30試合登板に留まり、「50試合登板」の記録は止まった。不調な中でも30試合登板しているのがやはりベテランの経験値とマウンドに立ち続ける「鉄腕っぷり」だと改めて思ったが、入団から常に第一線で戦ってきた森投手にとって、ここ数年は危機感を覚えずにはいられない立場となってしまった。
そんな中、心機一転! 森投手は今季から本格的に先発転向。昨季プロ初先発を経験したが、通算461試合目でのプロ初先発はプロ野球史上最遅だった。それだけリリーフとして腕を振り抜いてきたことの証でもあるし、先発転向は大きな転機であることがわかる。
本格転向1年目となる今季に向け、オフから精力的に先発としての準備をしてきた。
迎えた今春キャンプ初日のことだった。ブルペンに一番乗りした森投手は、107球の熱投を見せ、今年にかける思いを姿で見せた。しかし、その影響かキャンプ2日目に右内転筋に痛みを覚え、まさかの離脱。あまりに早い戦線離脱だった。