今年1月末、日本で民放番組に出演した身元不明の男性が、1989年に徳島県で失踪した4歳の男の子である可能性が持ち上がり、DNA鑑定がおこなわれたことが報じられた(結果、男性と徳島の男児両親とのDNAは不一致)。誘拐や行方不明で親子の関係が断絶されることの、当事者の苦しみは想像するに余りある。
ところで、この分野でも「大国」なのが中国だ。子どもをかどわかして売り飛ばす誘拐犯を指す言葉として、中国語には「人販子」というこなれた単語が存在し、メディアでも日常的に使われている(それだけ身近な概念なのだ)。
香港紙『文匯報』によると、中国で1年間に立件される子どもや女性の誘拐事件は約2万件で、1日平均50件とのこと。また2015年にNHKは、中国で行方不明(誘拐のみとは限らない)になる児童数は年間20万人に達すると伝えている。
誘拐した子どもの「市場価格」は約140万~170万円
中国大手週刊誌『中国新聞週刊』の記事によれば、誘拐した子どもの「市場価格」は、2017年3月時点で8万~10万元(約140万~170万円)ほど。男の子は女の子よりも高く、男の赤ちゃんが15万元(約260万円)で売買された例もあったという。さらわれた子どもの多くは、社会保障制度の不備から老後の不安を抱える、農村部の子どもがいない夫婦に売られているようだ。
中国の子どもの誘拐は、帰省ラッシュや買い出しで駅や街が雑然とし、忙しくて保護者の手が回らなくなる旧正月(今年は2月16日)前後に多発する。「人販子」で中華圏のニュースサイトを検索すると、今年も警告を発する記事が数多く引っかかる。
監視社会に対抗して進化するマフィアの最新誘拐手段
子どもの誘拐は従来、駅の待合室などの人混みで保護者が目を離した隙に赤ん坊を連れ去ったり、外で遊んでいるところを連れ去るような事例が多かった。ただ、近年は駅への立ち入りに検問や身分証確認がおこなわれたり、高度な顔認証機能を持つ監視カメラがあちこちに設置されたりと中国の監視社会化が進行。また行方不明児童捜索NGOが活発に活動するようになり、誘拐や人身売買は以前ほど簡単ではなくなった。
とはいえ、ハードルが上がればきっちりそれを越えてくる、謎のチャレンジ精神とイノベーションを発揮するのが中国のマフィアである。以下、『文匯報』の記事をもとに、最新の誘拐手段について紹介していくことにしよう。
(1)長期投資タイプ
例えば誘拐マフィアの一員である女性がターゲットの子どもの祖母に狙いを定め、長期間にわたり人間関係を構築して、自宅にも気軽に遊びに行けるような茶飲み友達になる。1年後、祖母が自宅内で屋上に洗濯物を取りに行く際に「すこし子どもを見ていて」と頼まれたので、まんまと誘拐に成功――。といった例である。
近年の中国では、両親が共働きで祖父母が子どもの面倒を見る例が多い(ベビーシッターは高額で、また必ずしも愛情を持って子どもに接してくれるかわからないためだ)。このパターンで祖父母が籠絡された場合、防ぐのはかなり厳しいだろう。実は中国での児童誘拐は、顔見知りの犯行によるものも相当多いとされている。
(2)サイバー活用&当たり屋タイプ
中国で9.8億人のアクティブ・ユーザー数を持つチャットソフト『微信』の「近くにいる人を探す」機能を使って子どもや保護者の個人情報を収拾。このようにして両親の知り合いを装い、学校帰りのターゲットの子どもに声をかけて連れ去る手法が数年前から流行した模様である。
もっとも最近はこの手口が有名になり、子どもの個人情報をネットに出さない保護者が増加。誘拐マフィア側はかえってアナログな手段に回帰し、放課後の子どもに故意にぶつかって「ケガはない?」「病院に連れて行こう」と持ちかける手口も出ているという。