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小泉より中曽根がモデル?

 與那覇 また、一見すると台頭する中国への警戒を各国首脳に説いていたようでいて、安倍外交は中国に対しても「落としどころ」を意識していたことがわかります。靖国神社に参拝しないことを中国が「約束しろ」と求めてくるのには、絶対応じない。しかし参拝するのは執政中に1回を限度として、タイミングも中国の面子を潰さない時期を見計らう。「関係を改善して首脳会談をやった直後に、日本の首相に靖国神社に行かれたら、中国首脳も政治的に持たないんですよ」(80頁)と。

評論家の與那覇潤氏 ©文藝春秋

 浜崎 「靖国に行かない」という明言は絶対にしないものの、中国と折り合いをつけた格好です。その点、左派メディアが作り上げたイメージに反して、実はそれほど歴史問題に拘ってはいないんですよね。

 與那覇 一昨年に刊行した『平成史』(文藝春秋)でも記しましたが、この安倍さんの姿勢は平成の小泉純一郎よりも、昭和の中曽根康弘の「靖国参拝」を思わせます。実は小泉政権下の官邸で「毎年参拝して、中国を根負けさせろ」と唱えていたのも安倍さんだったのだけど、自分が首相になると、特に第二次政権では現実主義にシフトしていった。

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 安倍晋三を「小泉改革の後継者」として知る世代に意外なのは、小泉評が冷たいでしょう。北朝鮮への強硬姿勢で人気が出た自分を「選挙目当てで利用しようと考えた」(383頁)だけの人だ、と。安倍さんの地金は「安定した戦後昭和」への回帰志向で、小泉型の破壊者ではない。

(本稿は2023年3月15日に「文藝春秋 電子版」が配信したオンライン番組をもとに記事化したものです)

與那覇潤氏と浜崎洋介氏による対談「“ネアカ宰相”安倍晋三の虚実」の全文は、「文藝春秋」2023年5月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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“ネアカ宰相”安倍晋三の虚実