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二軍の本拠地・ナゴヤ球場で若手選手を支える“心強い存在”…元中日・英智が明かす“聖地”の舞台裏

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/04

選手たちの心の支えになっている“心強い存在”

 次に食事の面です。食堂、現在の呼び方で言うならサロンでしょうか。そこには栄養が考えられた何種類かのおかずに白ご飯、玄米、そして必ず日替わりの麺類、何種類かのパンにおにぎりなどが用意されています。夏の暑い時期には冷たい麺の提供があったり、おかずも日替わりで変化させるなど飽きのこない配慮がされていて、目に見える心遣いが繰り広げられています。当然、身体が資本のプロ野球選手ですから心強い存在です。

 その日の日替わりの麺類は何だろうと気に留めて、サロンの入り口から選手たちが係の人に「本日の麺類は何ですか?」と聞く光景をよく目の当たりにしました。紛れもなく私もそのうちの1人ですが、お昼のご飯を楽しみに頑張れたりもしていました。

 クリーニングも欠かせません。プロ野球選手は準備が大切ですから、早く球場入りしてトレーニングや体のケア、データを分析したりしています。練習開始の2時間位前には球場入りしている選手もいますから、クリーニングの方はそれよりも早く来て前日ドロドロに汚れたユニフォームを綺麗に仕上げ、選手が来る頃には既に各自のロッカーに置いてくれています。

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 帰りも選手より遅く球場を出て、汚れたユニフォームを回収していきます。あの汚れを真っ白に綺麗にして、また朝は選手よりも早く球場に来て……まさに魔法使いです。

 そして、掃除のおばちゃんです。この方達は、朝の練習開始の時間辺りにどこからともなく現れます。おそらくナゴヤ球場のご近所さんなんだと私は睨んでいます。なぜなら、通勤手段は自転車か徒歩だからです。気がついたら、いつもの所定の狭い待機所で座談会が行われています。年齢は若い選手のお母さんよりは確実に上でしょう。

 普段は黙々と選手の動いた後をなぞるように追っかけてゴミの片付け、掃除をしてくれています。ただ、選手が練習を終え一息ついたリラックスしたタイミングでは、たまに会話が発生しているみたいで、そういうときはみんな笑顔で話をしています。

 決して厚かましくおばちゃん達の方から話しかけるのではなく、おそらく掃除をしてくださっていることに対して選手側からの「ありがとうございます!」などという挨拶が話すきっかけになっているようです。

 おばちゃん達はより近くでサポートしてくれていますから、選手たちが上手く行っている時、いかない時も見てくれています。「大変ね、頑張ってね!」とかける一声も、コーチがかける一声と全く効果が違います。きっと久しく会ってないお母さんやおばあちゃんの代役を買って出てくれているのでしょうね。

 なかには「頑張ってるよな!」と、何十も歳の離れた大先輩の肩に手を置き笑っている選手なんかもいて……その時だけはさすがに「大先輩を敬いなさい!」と指摘はしますが、おばちゃんも「いいの、いいの」と嬉しそうに許してくれていますから、私も思わず笑ってしまいます。両者のやり取りには家族のような温かささえ感じます。

 もちろん、選手に「しっかりね!」とハッパをかけてくれたりもします。コーチだった私達では入り込めない部分で選手たちの心の支えとなってもらえていて、とても心強い存在です。

 まだまだ他にもたくさんの方々にサポートしていただきながら選手達は頑張ることができています。二軍で必死に練習して成長した選手が一軍の表舞台で活躍すると、ひょっとすると真っ先にそういった皆さんが喜んでるのかもしれません。

 幼い頃から特別な存在であったナゴヤ球場は、憧れだった夢の舞台から、選手、コーチを経て、勝負の場所へと変化はしましたが、ナゴヤ球場へのリスペクトは私の中で未だ消えることはありません。

 

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