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過去を面白く提示するって、実は非常に難しい

大島 佐々木さんの作品はまさに「工夫」で見せてますよね。『ケンボー先生と山田先生』、世界を変えた知られざる日本人にフォーカスを当てる『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズは素材をきちんとストーリーに落とし込んで、CGを使ったり、舞台装置を作ったり、誰もがドラマやバラエティと同様に面白く見られるようにしている。

『ケンボー先生と山田先生』 舞台のような空間を使って演出した ©NHK

佐々木 そのつもりなんですけど、視聴率が……(笑)。ただ、某長寿ドキュメンタリー番組なんかを見てると、なんとなく現場に張り付いて大量に持ち帰った映像を元に、編集室で無理やりストーリーを作って仕上げてるな、というものが結構ある。単なる普通の会議シーンに、意味ありげなナレーションをあてて、さもすごいことが行われようとしているように仕立てたり(笑)。

大島 編集室でストーリーを作っているから、どんどん現場のディレクターの意図や、取材された方の気持ちと離れて行っちゃう。それが放送後に大きな問題になることもよくあることです。

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佐々木 現場では大したことが起きていないのに、すごいことが起こったかのように見せたがる。あれは良くない。

 

大島 佐々木さんがその風潮に必死で抵抗されているのは、作り方にも現れているんです。というのは、佐々木さんの作品はどちらかというと「現在進行形」ではなくて「過去」を取り上げたものが多いですよね。ドキュメンタリーって基本的に現在進行形で動いているものを取り上げるんですが、佐々木さんは「すでに起こったこと」をあの手この手で面白く見せてくれる。過去を面白く提示するって、実は非常に難しいんです。

土方 東海テレビでも、みんなで佐々木さんの作品を見て研究してるんですよ。

佐々木 ありがとうございます。僕がつい最近制作したのは、東芝でフラッシュメモリを発明した舛岡富士雄さんを取り上げた『硬骨エンジニア』という番組なんですが、これも基本的には過去の業績と人物像に焦点をあてた仕事ですね。

『硬骨エンジニア』より 若き日の舛岡富士雄 ©NHK

現在進行形のドキュメントは「不幸」を期待してしまう

土方 佐々木さんが過去をよくテーマに取り上げるのはどうしてなんですか?

佐々木 もちろん僕も現在進行形の取材をしていた頃があるんですが、ある時、辛くなっちゃったんですよ。なぜかというと、現在進行形で進むドキュメンタリーの面白さって、たいがい不幸なことが起きるところに発生する。「取材させてください、お願いします」と言って頭を下げながら、腹の底ではどこかで「この人になんか悪いことが起こらないかな」と思いながら撮っている節がある。それで、もし不幸な出来事がカメラにおさめられたら、顔には出さなくても「これで番組としては面白くなる」と思っていたりする。そういう関係性を続けるのがすごく嫌で、自己嫌悪に陥ったりしたんです。

『硬骨エンジニア』ではCGによる人物相関図も  ©NHK

土方 たしかに『ビッグダディ』とかも不幸の連続をみんなで楽しみにしているところがありますもんね。

佐々木 『ビッグダディ』(笑)。番組開始当初と違って、結果的にはそうなっちゃったかもしれませんね。

大島 僕も時々やってましたけれども、フジテレビの『ザ・ノンフィクション』も不幸が起こってほしい的な圧力が番組全体にありますよね。視聴者も不幸がなければ始まらない、みたいな期待を持っている(笑)。

土方 特にテレビ局が作るドキュメンタリーが、その不幸の原則に支配されている感じがしますね。不幸の素材を加工せず、ありのまま、むき出しで提示することに意義がある、という原理原則みたいな……。

佐々木 だから、ドキュメンタリーって非常に危ういジャンルだと思うんです。人の不幸に寄りかかっている部分もあるわけですから。だからこそ、ドキュメンタリーのテーマや手法もどんどん開拓していく必要があると思うんです。「重い」「固い」「取っつきにくい」「生々しい」だけがドキュメンタリーではないわけで、「面白いドキュメンタリー」にする方法論はまだまだたくさんあるはずですから。

 

後編に続く http://bunshun.jp/articles/-/6238

写真=平松市聖/文藝春秋 

おおしま・あらた/1969年生まれ。1995年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、現在ネツゲン代表取締役。MBS『情熱大陸』で寺島しのぶ、秋元康、見城徹、田中慎弥、磯田道史などを演出。他にNHK「課外授業ようこそ先輩」「わたしが子どもだったころ」など。2007年、ドキュメンタリー映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を監督。同作は第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞した。映画監督作品に『園子温という生きもの』、最新プロデュース作品に『ラーメンヘッズ』

ささき・けんいち/1977年生まれ。早稲田大学卒業後、NHKエデュケーショナル入社。『哲子の部屋』『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』『Dr.MITSUYA 世界初のエイズ治療薬を発見した男』『Mr.トルネード』『えん罪弁護士』『硬骨エンジニア』など様々な題材の番組を手がけ、ギャラクシー賞や放送文化基金賞、ATP賞などを受賞。
 著書に『ケンボー先生と山田先生』を元に執筆した『辞書になった男』(文藝春秋・日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『神は背番号に宿る』。新刊に『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』。
 現在「日経トレンディネット」でコラム「TVクリエイターのミカタ!」を連載中。

ひじかた・こうじ/1976年生まれ。上智大学英文学科卒業後、東海テレビ入社。情報番組やバラエティ番組のAD、ディレクターを経験した後、報道部に異動。2014年より、愛知県警本部詰め記者。同じく2014年、『ホームレス理事長 退学球児再生計画』でドキュメンタリー映画を初監督。公共キャンペーン・スポット「震災から3年~伝えつづける~」では、第52回ギャラクシー賞CM部門大賞、2014年ACC賞ゴールド賞を受賞。2015年、公共キャンペーン・スポット「戦争を、考えつづける。」で2015年ACC賞グランプリ(総務大臣賞)を受賞。他の監督作品に『ヤクザと憲法』。