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何を訊いてもまともな答えは返ってこない

 接触した車のほうは、かすった程度なので大事にしないということで(そもそも無免許で運転していたので、それどころではないのだが)、双方納得の上で決着。叔父と叔母を一旦自宅へ送り届け、その後、C銀行の駐車場から自分の車を引き上げ、2人を連れて警察署に向かう。

「更新手続きのハガキが来てるはずだけど、手続きしなかったの?」

「ん……、どうだったかなあ?」

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「無免許で人身事故を起こしたら保険も利かないんだよ」

「そうかあ……」

 何を訊いてもまともな答えは返ってこない。

 警察での手続き中も、他人事のようにただぼんやりとしているかと思うと、「トイレに行ってくる」と言って、突然立ち上がる。

 諸手続きを終えて叔父宅に戻ると、車のキーを預かり、すぐに廃車の手続きをする。

 これで一件落着と思いきや、そう簡単に事は終わらない。

「自動車保険の解約もしなきゃいけないよね。保険証券はどこにしまってあるの?」

「保険……。入ってねーぞ」

「入ってないってことはないと思うよ。知り合いの保険屋さんとか、自動車を買ったお店経由とか……」

 叔母に聞いても、「私は何もわからない」と繰り返すだけ。

「保険とか、税金とか、年に一度通知が届くと思うんだけど、そういう大切な手紙はどこにしまってあるの?」

「……どこだったかなあ」

 どうでもいいようなダイレクトメールの類いは、茶の間に置いてある箱の中に無造作に重ねて取ってあるのだが、肝心要のものは見当たらない。

「じゃあ、貯金通帳を見せてもらってもいいかなあ。口座引き落としになっていれば、入ってる保険会社がわかると思うから」

 抵抗されるのを承知で聞くと、いつも持ち歩いている革のセカンドバッグを差し出してくる。中を見ると、実印、マイナンバーカード、銀行と郵便局の通帳数冊(要するに叔父の全財産)が入っている。

 警察で、「トイレに行ってくる」と言って立ち上がったとき、このバッグを長椅子に置いたままその場を離れようとしたので、「叔父さん、いくら警察署の中でも置きっぱなしは駄目だよ」と、注意したばかりだ。

「もしかして、実印と通帳をいつも持ち歩いていたってこと……?」

 思わず頭を抱える。

 年金の受取口座になっているC銀行の通帳をチェックすると、毎年4月に一定の金額が「ソンポジャパン」に引き落とされている。金額から推測し、これが自動車保険で間違いないだろう。

 ただ、保険証券の在処がわからないため、代理店も担当者もわからない。叔父や叔母を当てにせず自力で探し出すしかないと判断し、保険代理店をやっている同級生に電話を掛け、調べてもらって一件落着。

 だがしかし、ここでまた事件が発覚する。