「キャッシュカード? そんなもん持ってねーよ」
「こっちの通帳もまだ使ってるの?」
C銀行のもう1冊の総合口座の通帳を開くと、残金が3000円ほどしかない。よく見ると、電気、ガス、水道、NHK、NTTなど、公共料金と固定資産税などの引き落とし専用の口座として使っているようで、半年に1度くらいの割合で、年金受取口座から一定額がこの口座に振り込まれている。
ただ……、ここ1年ほど入金した形跡がない。
ということは、運転免許証の更新の手続きや、こうした日常生活に欠かせない出費の管理がここ1年くらいの間にできなくなってしまった可能性が高い。
「この口座、残金が3000円しかないから。このままだと今月の引き落としができなくて、電気も水道も止まっちゃうよ」
叔父と叔母に通帳の残金を示し説明するが、叔父は「おー、そうか」と他人事のようだし、叔母は「そういうことは叔母さんわからないから」と、事の重大性が全くわかっていない。
「キャッシュカードを貸してくれれば、そこのATMで大至急振り込んでくるけど」
早いほうがいいだろうと思ったのだが、
「キャッシュカード……? そんなもん持ってねーよ」
驚くような答えが返ってくる。
「銀行の窓口に行かなくてもお金を下ろしたり振り込んだりできるカードのことだけど、持ってないってことはないよね」
念のため確認する。
「叔父さんも叔母さんも、そういうものは使い方がわからないから持ってないのよ」
「ってことは、いつも銀行や郵便局の窓口に行って下ろしてたの?」
「そうだよ」
「すぐそこのATMで下ろせるのに」
今どき、キャッシュカードを持っていない人がいるとは……。
驚きを通り越して呆気にとられる。と同時に、年金の支給日、高齢者でごった返している銀行や郵便局の窓口を思い浮かべ、そういうことかとため息が漏れる。
いやいや、そんなのんきなことを言っている場合ではない。車を廃車にしたということは、今後この2人がお金を引き出す際には、私が銀行の窓口に連れて行かなければならないということだ。老父母だけでもてんてこ舞いだというのに、さらにこの2人の面倒を見なければならないのか。
ため息どころか、頭のてっぺんから火が噴き出しそうになる。
この2人、本人が銀行の窓口へ行けなくなったとき、長期の入院や施設への入居などでまとまった現金が必要になったとき、本人以外が銀行の窓口へ赴いてもお金が下ろせないということを知っているのだろうか。そういう状況になったとき、どうするつもりだったのだろうか……。