これで一件落着かと思いきや…
たぶん、何も考えていないのだろうが、状況を知ってしまった以上、このまま放っておくわけにはいかない。
「月曜日の朝一番で銀行に行って、こっちの引き落とし専用の口座に入金して。2人ともキャッシュカードを作るからね。いい? わかった?」
キャッシュカードを預かっておけば、いざというとき、2人に代わってお金を引き出すことはできる。この世の中に、叔父や叔母の入院費や施設の費用を立て替えられる人がどれほどいるのだろうか。少なくとも私にはそんな余裕はないし、するつもりもない。
それにしても、残金が3000円になっても気づかないとは……。
何かが引っかかったのだろう。もう一度叔父の通帳を見てみると、毎月携帯電話の料金が引き落とされている。
「携帯電話の料金が毎月引き落とされてるけど、叔父さん、携帯持ってるの? 叔父さんが携帯電話使ってるとこ見たことないけど」
「携帯かあ。持ってたような気がするけど、どこにあるかわかんねーよ」
気がするって、どういうこと?
「何年か前に、知ってる人に勧められて作ったのよ。でも、使い方がわからないからって一度も使ってないと思うよ」
叔母もまるで他人事のようだ。
「ってことは、使ってもいないのに料金を払い続けてたってこと?」
当てにならない叔父叔母の代わりに、死蔵品で溢れかえっている茶の間や、職人の叔父がかつて使っていた作業場を捜索すること約30分。箱に入ったままの携帯電話を工具箱の中から発見する。
保険代理店のSさんからの電話で家を飛び出したのが午前10時過ぎ。C銀行の駐車場と叔父宅を2往復し(2度目の往路は自分の車を取りに行ったので徒歩で)、その後警察へ。諸手続きを終え帰宅すると、「お腹が空いた」という叔父と叔母がお昼ご飯を食べている間に、廃車と自動車保険解約の手配をし、これで一件落着かと思いきや、キャッシュカードと携帯電話の問題が発覚する。
埃をかぶった置き時計の針がまもなく午後2時になろうとしている時刻。お煎餅を食べながらのんきにお茶を飲んでいる叔父と叔母を横目に、「私、まだお昼ご飯食べてないんだけど」ため息をつく。
月曜日、朝一番でこの2人を銀行へ連れていき、諸々の手続きを終えたらその足でauショップに向かったとしても、たぶん半日は潰れてしまうだろう。
通帳でしょ。印鑑でしょ。マイナンバーカードでしょ。携帯電話でしょ。手続きに必要なものを確認すると、疲れた足を引きずるようにして私は叔父宅を後にする。