“チケットがもっとも取れない講談師”神田松之丞インタビューの後編。松之丞の登場で盛り上がる講談界だが、当の本人が頭を悩ませていることがある。それは依然、講談師が絶滅危惧種ということだ。新弟子が入ってこない。所属する日本講談協会では、男性講談師としては彼が最年少のままである。

 松之丞は大学時代、あらゆる芸能を見て、講談の世界に入ることを決意した。前近代的ともいえる厳しい前座修業を経て二ツ目になったわけだが、彼が思う講談師になるために必要な要素とは何だろうか。プロになるために必要なセンス、師匠との関係性など、独特の育成システムについて、松之丞が語る。

*前編〈天才講談師・神田松之丞のビジョン「2年後には真打にさせろ!」〉より続く

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©榎本麻美/文藝春秋

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講談界に新弟子が入ってこない問題

――松之丞さんは去年のインタビューで、ライバルにも、同志にもなり得る新弟子の入門を待っているとお話しされていたんですが、所属する日本講談協会には、なかなか新弟子が入ってきませんねえ……。

松之丞 いま、定席といって定期的な講談会は満員になってますし、協会として全般的に見れば好調なんです。唯一と言っていい悩みが、新弟子が入って来ないことでして。ついに、2月からは前座がひとりになってしまうんです。

――劇場には若い人も増えてますし、入門者が現れるのは時間の問題だとは思いますが、みんな松之丞さんの弟子になりたいんじゃないですか。だから松之丞さんが真打になるまで待とう、そう思ってるんじゃないかと。

©橘蓮二

松之丞 いま、僕のところに弟子入りをしようと考えてるヤツがいたとしたら、もれなくダメでしょうね。

――えっ?

松之丞 おそらく、僕のところに入りたいと思っているならば、その人は間違いなく僕のファンでしょう。それはありがたいことです。ただ、僕は講談界全体から見れば今は「変化球」でしかない。講談で食っていこうとするなら、本筋を学んだ方がいいと思うんです。ですから、僕の姉弟子である(神田)阿久鯉、あるいは師匠の(神田)松鯉に入門した方がしっかりとした芸を身につけられると思います。そうしたビジョンを持っている人がいるといいんですけど。それに、こう言ってしまうと嫌味かもしれませんが、僕は今いそがしい時期じゃないですか。

――いそがしい。たしかに、いそがしい。

松之丞 だとすると、きちんと面倒を見る時間がないかもしれない。それくらいのことに気づかないようじゃ、食っていけるようにはならないと思うんです。おそらく、僕と良好な関係を築きたいのなら、他の先生に入門して、僕が兄弟子の立場になるのがいちばんいい。僕は弟弟子を全力でかわいがります。