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 第一に挙げられたのは後部甲板を飛行甲板とする従来のはるな型・しらね型と同じ案で、第二案は船体の中央に巨大な艦橋を置き、その前後に飛行甲板を置くという特異な形状だった。ヘリの運用からすれば微妙な案だが、防衛庁は次期DDHイメージ図としてこれを発表していた。

防衛庁がDDH後継艦として当初公表していたイメージ図(海上自衛隊サイトより)

 一方で実際に後継・ひゅうが型(2009年就役)で採用された全通甲板は「第三案」として最後に載っていた。当時、朝日新聞編集委員だった田岡俊次氏は「計画が認められるまでは艦型もあいまいにしておく作戦」と推測していたが、そのように本命の全通甲板の採用をギリギリまで曖昧なものにしておこうという意図は、空母を想起する形状を早くから国民に開示することに慎重になっていたことを示している。

実際に完成したDDH後継艦・ひゅうが型(海上自衛隊ホームページギャラリーより)

 おおすみ型以降、海上自衛隊は20年かけて全通甲板でのヘリ運用を経験し、「空母型」の全通甲板を有する艦艇を多数持つようになった。まさに海上自衛隊が創立以来の念願であり、周到に環境を整えてきた空母に手をつける瞬間が迫ってきたのかもしれない。

日本が空母を保有する意義とは

 では、海自の悲願であった空母保有により日本の防衛上、どんなメリットがあるのだろうか? 共同通信に続いて護衛艦の空母改修を報じた昨年12月26日付の読売新聞では、島嶼防衛を念頭に置いているとされている。

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 空母は航空機の運用プラットフォームであり、戦闘における価値は搭載される航空機に左右される。海自で搭載が取り沙汰されるのは、F-35Bである。アメリカ海軍が空母艦載機として運用予定のF-35Cは発艦にカタパルトの補助が必要なのに対し、F-35Bは単独での垂直離着陸能力を持ち、主にアメリカ海兵隊がカタパルトを持たない強襲揚陸艦で運用している機体だ。色々な制約はあるものの、全通甲板でなくとも僅かな飛行甲板さえあれば離発着は可能だ。

米空母ジョージ・ワシントンのカタパルトから飛び立つ艦載機(米海軍フォトギャラリーより)

 また、空母導入では早期警戒機(AEW)も艦載機に含まれるだろう。AEWによる索敵範囲の増大は、海自の空母導入の大きな動機の一つでもあった。艦隊の「目」の届く範囲を飛躍的に増大させるAEWとその護衛の艦載戦闘機の導入は、空自の早期警戒管制機(AWACS)や米軍情報に頼らず、海自が完結した艦隊の運用能力を持つことを意味する。

 さらに運用面では、九州南端から尖閣諸島や八重山諸島へと到る南西諸島で航空機が運用可能な拠点は限られており、これらが使用不能となった場合、本土から航空機を運用することになる。南西諸島における航空自衛隊の航空基地は那覇基地だけであり、ここが使用不能になった場合、那覇基地より700km以上離れた宮崎県の新田原基地を拠点とせざるをえず、この場合は往復で1時間以上も余計に時間を取られるなどリアクションタイム増大や行動へ大きな制約となるだろう。

 しかし、航空機運用可能な海上プラットフォーム(≒空母)があれば、これらの問題は軽減される。単独で早期警戒機、戦闘機の運用能力を持つ艦隊があれば、航空基地の少なさの割に広大な南西諸島という「戦場」において、それに見合った価値はあるだろう。