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海自の艦船が恒常的に定員以下の人員で運用されている

 ここまで挙げたことを振り返ると、空母導入は海自にとっていいことずくめに見える。だが、海自にはこれを実現するには深刻な問題がある。

「この船、定員は300名以上ですけど、250名しか乗っていません」

 実際に海上自衛隊のイージス艦に乗った際、乗員との会話の中で出た話である。もっとも、これはつい最近始まったことではなく、海自の艦船が恒常的に定員以下の人員で運用されていることは、冷戦期から指摘されていた。

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 現状、海自は中曽根政権時代の1980年代と主力である護衛艦隊の基本形は同じなのだ。仮に空母保有に至った場合、多くの乗員を必要とする空母に人的リソースを持っていかれるため、海自乗員を増員するか、または艦艇の削減によりリソースを確保しなければならないだろう。かつて海上自衛隊の艦艇の大型化や増数が実行・計画された際に、乗員の問題が置き去りだと批判している海上自衛隊OBもいた。軍事評論家の岡部いさく氏も2018年1月26日付の毎日新聞(夕刊)で、人員リソースの問題を提示して疑問を呈しているが、筆者も同感である。

 また、実際に防衛費削減の流れの中、空母保有が重荷になっている国が存在する。長年に渡り独自に空母を運用してきたイギリスがそれだ。昨年末、新型の空母クイーン・エリザベスが就役したばかりのイギリス海軍だが、海軍予算が削減された結果、2018年2月現在、空母の護衛を担える水上艦が6隻の駆逐艦と13隻のフリゲート艦しかいない(しかも新型の45型駆逐艦はトラブルに見舞われている)。つまり、空母1隻の護衛として3~4隻が稼動すると、各艦のメンテナンス・休養も考えれば、ほとんど動ける駒としての水上艦の余力がないことを意味している。

イギリスの空母クイーン・エリザベス(英国防省サイトより)

 日本も長年の横ばい・微減から防衛費増加傾向に転じたとは言え、ミサイル防衛などに多くの予算が割かれている現状がある。そういった事情もあり、同盟国アメリカやイギリス、オーストラリアといった国々との軍事的協調を深化させているのが現政権の方針である。にもかかわらず、空母保有によって独立した能力を確保することは、その流れに反する方針ではないか。海自の質的・量的な転換をともなわないならば、世界最大の空母戦力を有するアメリカ海軍を補完する防衛力の整備を志向するのが筋ではないか。フネの数だけ揃えて船頭がいなかったら意味がないのだ。

「何が変わるのか」を明らかに

 筆者個人として、「空母」計画にただ反対しているのではない。問題は現状の海自の予算の大幅増が望めない以上、「空母だけ」先行した計画は当然デメリットもともなうのだ。配備による海自のリソース配分の変化と、それにともなうメリット・デメリットについて明らかにすべきだろう。

 もっとも、この手の防衛装備絡みの観測気球的な報道は、過去の実例から、徐々に高性能化していく傾向があると筆者は考えている。既報の既存艦艇改修&F-35Bではなく、いつの間にかF-35C導入とそれを運用する艦艇建造の話に変わっているかもしれない。