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米中海戦はもう始まっている――中国空母〈遼寧〉に接近せよ

いま発売中の話題書から、第1章の全文を特別公開!!

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◆いま発売中の話題書から、第1章の全文を特別公開!!

自国の空母から半径45キロ圏内を一方的に「航行禁止海域」に指定した中国。この暴挙に対し、一隻の米軍艦が南シナ海に派遣された。「航行禁止海域を無視し、中国空母に接近せよ」。そのミッションに、世界の「航行の自由」がかかっていた。

(出典:『米中海戦はもう始まっている 21世紀の太平洋戦争』第1章)

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 12月の穏やかな、ほとんど雲のない日だった。米軍艦〈カウペンス〉は南シナ海の危険な海域を単独で航行していた。臨戦態勢の将校及び乗組員400名を乗せ、〈カウペンス〉はアメリカ国旗をはためかせ、高速で目標に接近していた。

 その日の目標は、中華人民共和国の国旗を掲げる空母だった。そして、〈カウペンス〉の乗組員にとって、それは演習ではなかった。

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〈カウペンス〉はタイコンデロガ級誘導ミサイル巡洋艦だ。美しさと力強さを兼ね備えている。全長およそ170メートル。上部構造が低く、船体はほっそりしている。最高時速およそ60キロメートル。海上で体感する時速60キロメートルは、陸上のそれより遥かに速い。船体を伝わる8万馬力の推進プラントの振動、艦首に砕ける白い水しぶき、誇らしげに翻る星条旗。甲板に立っていると、まるで9000トンの生き物の背中に乗っているような気分になる。アメリカ海軍の水上艦乗組員にとって、〈カウペンス〉は美しい船だ。

南シナ海を航行するミサイル巡洋艦〈カウペンス〉 ©U.S. Navy

 だが、美しさは二次的なものだ。〈カウペンス〉の第一の目的は破壊なのだ。

 そのためにミサイルが搭載されている。100発以上ものミサイルが主甲板下の積載ラックに収納されるか、あるいは甲板上の発射装置に固定されている。対空ミサイル、対艦ミサイル、ミサイル迎撃ミサイルと、攻撃及び防御用のさまざまなミサイルが用意されている。1600キロ彼方の陸上の目標を破壊できる、1発100万ドルのトマホーク巡航ミサイルもあれば、水平線の彼方の敵艦に250キログラムの高性能爆薬をぶち込める超低空飛行のハープーン・ミサイルもある。潜航中の敵潜水艦を追尾して撃沈できるアスロック対潜ミサイルも搭載されている。さらに、80キロメートル彼方の敵機を撃墜できる艦対空ミサイルもある。

 それだけではない。目標が比較的近距離の場合――たとえば、敵に占拠された島への上陸作戦を支援する場合など――のために、24キロメートル離れた場所に70ポンド[約32キログラム]の砲弾を撃ち込める5インチ砲が2門、艦首と艦尾に装備されている。さらに接近戦になった場合――たとえば、急接近してくる敵の小型高速砲艦と渡り合う場合など――のためには、ブッシュマスター25ミリ機関砲が2門と50口径機関銃2挺が装備されている。いよいよ本格的な戦闘になり、敵のミサイルが迎撃システムをかいくぐってマッハ2の猛スピードで飛んできた場合には、“毎秒”75発の砲弾を発射してミサイルを粉砕する20ミリ機関砲ファランクスがものをいう。

 それはもう驚異的な火力だ。実際、タイコンデロガ級巡洋艦は史上最強の軍艦となるべく設計されている。敵を威圧し、畏怖の念を吹き込み、必要とあらば壊滅的な打撃を与えることを意図して設計されている。〈カウペンス〉がその日、南シナ海のその場所へ派遣されてきたのはそのためだった。

 とにかく、理論上はそのはずだった。だが、実情は見た目とはかなり違っていた。