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副艦長不在、若手と「小心者」ばかりの艦内

 もちろん、いやしくもアメリカ海軍艦艇の指揮を執(と)ろうとする人間にとって、問題(海軍将校の用語では「課題[チャレンジ]」という)は日常茶飯事だ。装備は故障するし、コンピュータ・システムは不具合を起こすし、人間はミスを犯す。そして、そのすべての責任は艦長にある。ナットやボルトのねじ山がつぶれていることも、マイクロチップが読み取れないことも、ブートキャンプを出たての18歳の新兵が使い物にならないことも。海軍の世界では、軍艦内で何か不都合なことがあれば、それは単に艦長の責任というだけでは済まない。それは艦長の“落ち度”、ということになるのだ。

 艦長が船室でぐっすり眠っている間に、下級将校の不注意のせいで、海図に載っていない砂州に船が乗り上げてしまったとしたら? それは艦長の落ち度だ。機関室の視察のために艦長が船倉に降りていた間に、こっちに向かってくる小さな漁船を経験の浅いレーダー・オペレーターや艦橋監視員が発見し損なったとしたら? それは、船のメンテナンスと乗組員の訓練を怠った艦長の落ち度だ。そして、もし深刻な人的・物的損害が発生したら、艦長は陸に上がるしかない。

 これが、アメリカ海軍の艦長が受け入れなければならない厳しいシステムなのだ。一見何でもないことのように思われる些細(ささい)な問題でもキャリアを台無しにしかねないことを、彼らは知っている。

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 だが、ゴンバート艦長が抱えている問題は標準を遥かに超えていた。

 まず、乗組員の問題があった。340名の乗組員は、入隊2~3年目の20代前半の若者と高校卒業後わずか半年のティーンエージャーばかりだった。たしかに、彼らは真面目で熱心だ。一生懸命努力している。だが、彼らは〈カウペンス〉に乗り組んでまだせいぜい10ヶ月だし、しかもその10ヶ月の大半の間〈カウペンス〉は入港中で、海上には出ていなかった。他のタイコンデロガ級巡洋艦に乗り組んだ経験のある者もいるにはいるが、彼らにしても〈カウペンス〉特有の癖を飲み込んでいるわけではない。感覚で分かるという状態にまだ達していないのだ。

〈カウペンス〉から発射されるSM-2 ©U.S. Navy

 それは、27名の上等兵曹も同じだった。どんな軍隊組織でも、上等兵曹のような下士官は中心的な存在だ。彼らは経験豊かだし、頼りになる。駆逐艦や巡洋艦に乗り組んで過去10年間、西太平洋各地を転々としてきた者もいる。だが、彼らにしても〈カウペンス〉での経験は長くない。言ってみれば、引っ越してきたばかりの町で生活し、仕事をしているような状態だ。

 下級将校32名にもやはり限界がある。ゴンバートは、副艦長を「著しく統率力に欠ける」としてすでに事実上解任していた。これは、特に海上展開中の艦長の行動としては異例だった。またこれは、ゴンバートが断固たる措置を取り得る艦長だということを示す行動でもあった。そんなわけで目下、〈カウペンス〉には副艦長がいない。その分、艦長の肩にかかる荷はさらに重くなっている。ゴンバートの目には、他の下級将校(20代半ばから30代前半の男女)は優柔不断で自信に欠け、責任ある任務を進んで引き受けようとしないように見えた。古臭い表現を使うことのあるゴンバートは、彼らのことを「小心者」と表現したことがある。