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ルーキーが「格上」に勝つために…

「勝利の方程式」が確立していた去年であれば、ルーキーに開幕戦のクローザーを任せるという案はなかっただろう。今年だったから、はからずも終盤の投手起用を組み替えざるを得ない状況だったから、可能性を秘めた青山に託すことになった。

「ルーキーのデビュー戦が開幕戦のクローザー」という枕詞がいくつも付く重大な任務を与えられた青山は、それだけで野球選手として持っていると言って過言ではないだろう。

 オリックスとの開幕戦、2-1と1点リードで登板した青山は、最初のバッター・西野真弘をファーストゴロに打ち取り、続く4番・杉本裕太郎には4球すべてストレートを投じてショートゴロに打ち取った。ツーアウト。ここで打席は森友哉、ユニフォームを西武からオリックスに替えて初戦、ここまでノーヒットで迎えた4打席目。青山の投じた初球は無情にも、まさに無情にもライトスタンドへ飛び込んだ。あまりにもきれいな同点ホームランに、レフトスタンドも静まり返った。

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「ちょっと内に入ってしまえばヒットではなくホームランで返されてしまうので、そこは一番感じました」(文化放送ライオンズナイターのインタビューより)

 青山がプロ初登板のマウンドで知った怖さ。少しの投げミスも相手は見逃してはくれない。これまでアマチュア時代はヒットで済んでいたものが、ホームランになる。ここぞの場面で相手の集中力が上回る。その一瞬の積み重ねでメシを食ってきた人間のしたたかさを、感じなかったはずはない。

 ルーキーであればなおさら相手は見下ろして向かってくるのだから、それに負けない技術を磨き、工夫をし、気持ちを持たなければいけない。

 ある意味、今は相手全員が「格上」だ。その相手に向かっていくためには、研鑽を積んで自らも格を上げるほかにない。時間のかかる道なのは語るに及ばないが、相手も時間をかけてきたプロなのだ。勝つために、人以上に感じて、工夫して、努力するしかない。近道はないのだ。

可能性と、クローザーとして必要な経験

 豊田コーチは「なかなかこういう経験はできないので、今後この経験を生かしてやっていってほしいし、まだまだ(抑えとしては)増田と肩を並べるということにはならないので、これから1年かけてどこに入っていくかは彼の努力次第かなと思います」と話す。ともするとマイルドに聞こえる言葉だが「経験を生かす」ことがどれだけ難しいのかを身をもって感じてきた言葉は重い。

 ライオンズナイター解説者の東尾修さんも「打たれて何を感じるか。自分に何が足りないのか、人に言われるのではなく自分で気付かないと変わらない。これからどう考えていくかがすべて」と言い、与えられたものだけでは成長などしないと、若獅子の気付きを望んだ。

 重責がのしかかる場面だけに強烈な印象として残る開幕戦の登板だが、クローザーなら必ず通る道だ。試合をひっくり返されることも、誰かの勝利を消してしまうことも、あるいはファンのため息を聞くことも、経験したことがないクローザーはいない。大事なのはそこから何を気付きとするかだ。

 開幕戦以降、青山自身は次の登板で見事プロ初セーブを挙げ、チームに今シーズン初勝利をもたらした。その後はビジターでの登板、セーブの付かない勝ち試合、セットアッパー、ビハインドの展開とさまざまな場面での経験を積んでいる。

 豊田コーチが感じた「可能性」という芽を、本人がどう育てていくか。日々の経験をどう栄養にしていくか。いつまでもあるわけではないチャンスをどう掴むのか。期待を込めて見たいと思う。

 先日、文化放送のインタビューでのこと。クローザーのポジションに関して、青山は「自信というよりはやりたいという願望が強いので、びしっと抑えて自信をつけたいと思っています」と言い、どんなピッチャーになりたいかと問われると「『青山が出てきたら無理だ』と思わせるようなピッチャーに、絶対的なクローザーになりたいです」と言い切った。

 今のライオンズには「自分がやってやる」というこういう選手が必要だ。この強い気持ちが、私たちに美しい夏を見せてくれると信じている。

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