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菊池寛に“世話になった”作家たち
過剰な食への執着は間違いなく寛の欠点であるが、同時に、作家として、社長としてのチャームでもあったのだ。前述の小林秀雄はもちろん、芥川龍之介や川端康成など、菊池寛に“世話になった”作家、編集者は枚挙にいとまがない。直木三十五などは、借金苦にあえいでいた無名時代に「文藝春秋」で書き物の仕事を寛から得、文字通り「食わせてもらっていた」時期さえあった。
「ある意味、胃袋を掴んだということなのかもしれませんね。菊池さんのところに行けば、食いっぱぐれないと思わせることは、今ほど社会保障の充実していなかった時代においては、私たちが考えるよりもずっと大きなことだったかもしれません」(門井氏)
ここに一葉の写真がある。
写っているのは、川端康成、小林秀雄、大佛次郎、佐藤春夫、丹羽文雄など、菊池寛の13回忌に集まった多くの作家や編集者仲間である。
人間の人望は死んだ後に分かる、とはよく言われることだが、この写真をみれば、菊池寛の人生が破天荒で無茶苦茶だったばかりではなかったことが窺えるようだ。
そんな寛の一代記を綴った、門井慶喜さんによる『文豪、社長になる』が刊行され、話題となっている。これを機に、稀代の“ダメ文豪”、“ダメ社長”だった男の生涯を覗いてみてはいかがだろうか。