創作に打ち込まんと移住を決意した漫画家の新居は、次々と難題がふりかかる「ヤバハウス」だった……。実話をベースとした移住記録漫画『糸島STORY』を描き継いで人気を博すのが、漫画家つのだふむ。その作品から、地方移住の現実や、いまの時代に漫画家として生きる困難と愉しみが、透けて見える。
なぜ移住記録漫画を描き始めたのか
つのだふむは30代半ばを過ぎているが、漫画家としてのキャリアはまだ数年で、新人と呼んでいい。
かつては映像ディレクターとして働いており、30代に入ってから漫画家へと転職した異色のキャリアを持つのだ。現在は、ロケ弁愛に溢れるテレビドラマ現場スタッフを主人公に据えた作品『ロケ弁の女王』の制作チームに名を連ね、同作連載に勤しんでいる。
同時に個人の創作として、『糸島STORY』も展開。自身の移住生活のドタバタぶりを赤裸々に描き出している。
以前は東京で妻とふたり暮らしをしていたつのだが、福岡県最西部の糸島市へと移り住んだのは2022年のこと。とくに縁があったわけでもない土地へ向かうこととなったのはなぜか。ひょっとして、漫画に描くための「ネタ」を生み出すため?
「ネタや話題づくりが目的というわけじゃないですけど、すべて漫画のためだったというのはたしかです。いま漫画の原稿はデジタルで描いてインターネットで送りますし、編集者とのやりとりもリモートが大半。どこにいても仕事に支障はないので、だったらより漫画に集中して打ち込めそうな環境で暮らしてみようかと考えました」
つのだふむ本人はそう話す。
「糸島どころか福岡にも縁は全くなかった」のにナゼ
移住の直接のきっかけとなったのは、つのだが所属する作家エージェンシー「コルク」の佐渡島庸平代表から、誘いを受けたことだった。あるとき唐突に、所属漫画家たちへ向けて、「糸島に住んで漫画に没頭してみたい人はいない?」とのメッセージが飛んだのだ。