佐渡島代表自身、会社をフルリモートワークのスタイルへ切り替え、住居を福岡市内に構えて、東京と福岡を行ったり来たりの二拠点生活中。豊かな自然に恵まれ、福岡随一のリゾート地として知られる糸島には、よく足を運んでいた。ここに作家が滞在すれば、創作にきっといい効果があると踏んだ。
所属漫画家たちに投げかけてみると、真っ先に手を挙げてきたのが、つのだふむだった。
「糸島はもちろんのこと、福岡県自体にもまったく縁はなかったんですが、ここは名乗りを上げたほうが、漫画家人生がおもしろい展開になるはずだと思ったんですよね」
不安な点はあった。美容師として店を任されていた妻には、仕事を辞めてついてきてほしいとお願いするしかなかった。映画館や大きな書店などは近くにない土地だから、先端的なエンターテインメントにすぐには触れられなくなってしまう。クリエイターとして、そんな引っ込んだ生活でいいのか……、などと心配は尽きず。
が、住めば都というのは本当だった。
「思い切って来てみれば、糸島は思っていた以上にいいところ。何といっても、自然の織りなす風景のすばらしさと環境のよさはすごい。高台にある家からは、大海原がいつでも見晴らせます。海の色が毎日毎刻、変わっていくなんて知りませんでした。
食べものだって抜群においしい。肉も野菜も、地産地消で新鮮かつモノが違います。ちょうど食べものをテーマにした『ロケ弁の女王』を連載しているところなので、食に対する解像度が高くなったのは大きなメリットです」
コオロギが出たり大量のヤモリが天井に…「ヤバハウス」の実態
そう聞くと地方での漫画家生活は上々のようだが、うまい話ばかりとはいかない。糸島で選んだ住居が「難あり」だった。
古くから別荘地として開発された一角に建つ、築年数50年に迫ろうかという一軒家。自然に囲まれた立地で、古い家の造りは気密性が高くないため、家のなかに平気で虫が出た。住み始めたばかりのころ、立て続けに巨大なムカデが出たのはショックが大きかった。