阪神タイガース監督の岡田彰布さんとnews zeroメインキャスターの有働由美子さんの対談「10年前のWBC監督を断った」を一部転載します(文藝春秋2023年6月号)。

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「ずっと阪神ファンです」

 岡田 こんにちは、どうも宜しくお願いします。

 有働 監督、画面越しですがお久しぶりでございます! 今回の対談はシーズン開幕直前の3月末にリモートで行っております。今はどちらにいらっしゃるのですか。

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 岡田 ちょうど鳴尾(二軍本拠地の阪神鳴尾浜球場)から甲子園のクラブハウスに戻ってきました。

岡田監督 Ⓒ時事通信社

 有働 わたくし1985年の阪神タイガース日本一の時は大阪の高校生で、授業中もイヤホンしてラジオで中継を聞いていました。ずっと阪神ファンです。大好きなチームの監督さんって好きな人のお父さんみたいな緊張感があって、今日は言葉がうまく出ないかも(笑)。

 岡田 ハハハ。

 有働 今年はWBCの影響で、プロ野球に関しても注目度が例年以上ではないですか。

 岡田 世界一になってくれて、野球界が盛り上がったままシーズンに突入ですからね。ちょうどWBCの期間中はオープン戦で東京ドームホテルに滞在していたし、全イニングを見ましたよ。はっきり言うて。

 有働 どんな視点でご覧になりましたか。

 岡田 今年のように監督をしていると、負けたら大変だということを試合終了まで考えてしまうんですよね。去年までのように評論家や解説者だったら、試合展開に一喜一憂しながら楽しめたと思うんですけど。

 有働 やっぱり監督ってそういうものですか。幸い侍ジャパンは全勝しましたし、野球の面白さを実感した人たちがプロ野球ファンとしても根付いてくるかと思います。

 岡田 今年の場合はWBCの影響がまだまだ続くでしょう。僕もみんなが注目してくれている中で久しぶりにユニホームを着られるというのはすごい嬉しいですね。

野村監督のボヤキ

 有働 岡田監督がタイガースの監督になるのは15年ぶり、65歳での復帰でしたね。選手時代から振り返ると、1980年にドラフト1位で阪神に入団し、85年の優勝に貢献されました。オリックスで現役を引退され、98年に二軍助監督兼コーチとして阪神に復帰。二軍監督を経て、2004~08年に一軍監督を務められました。05年にはリーグ優勝を達成。それが現時点では阪神の最後の優勝となっています。

 岡田 その後オリックスの監督を3年間(2010~12年)やりましたけど、やっぱり阪神の方が長いからね。もう18年も優勝から遠ざかっているでしょう。もう少しちゃんとしたら勝てたんじゃないかというのは、毎年思ってきましたね。

 有働 そうなんです、監督!! 毎年「優勝する力がある」と言われながら勝てなくて、もどかしいです。

 岡田 特にこの4~5年はチャンスがあったと思いますけどね。僕はタイガースの暗黒時代を知っているのでね。当時の野村克也監督が「この戦力じゃムリだ」ってボヤいていたのを、僕は二軍監督としてよう聞いていた。でも今のチームは毎年Aクラスで、もう少しで優勝を狙えたのにというのを繰り返しています。

 有働 優勝に何が足りなかったのでしょうか。

 岡田 実際にチームの中に入ってみて、取り組む姿勢に厳しさが足りないかなと思いました。

 有働 厳しさ?

 岡田 ええ。緩んだままズルズルやっていてもある程度は勝てるくらい戦力があるんです。もう少しネジを締めたら変わるなと思いました。

 有働 ネジを締めるというのは具体的にどんなことですか。

 岡田 一つ挙げると、5年連続でエラー数がリーグワーストなんですよ。考えられないような守備のミスが見受けられたので、原点回帰で基本練習の反復からやろうと。昨年11月の就任以来言い続けています。

 有働 いやー監督、ファンとしても同感です。球場に行って今日はもう勝ったなという展開でエラーから負けた試合を何回も体験しました。「どないなってんねん!」と。ネジを締めるとなると「怒る」こともするのでしょうか。

 岡田 いや、怒りはしないです。昔やったらすごい怒っていたと思うけど、今は時代が違う。代わりに今まで流動的だったポジションを固定するとかね。このポジションは自分のものだという自覚や自信が出てくれば、凡ミスは減ると思います。

 有働 なるほどなぁ。今のチームは若い選手が多いですよね。

 岡田 一番上の西勇輝でもまだ今年で33歳です。伸びしろある若い選手が自信をつけて、シーズンを通してだんだん強くなっていく。そういう楽しみが大きいですね。

 有働 若いチームということで、監督自身は以前と指導法を変えたんですか。

 岡田 今の方が選手に技術とか細かいことまで教えていますよ。

 有働 それはなぜ?

 岡田 前回は優勝経験があって、大人のチームというかある程度完成されたチームだったんです。特に野手は、一番脂の乗り切っているところでね。逆に前年の優勝チームだから勝たないといけないプレッシャーもあって気持ちは楽ではなかった。その点、今回は若いチームでまだまだ技術・体力をつけないといけない選手がいてるし、そこを育てられれば個々人が伸びて強いチームになる。ものすごいやりがいがあります。