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岸田首相に「安倍化」の兆候? 自著で語っていた“戦法”とは「政治家は、罵倒されたからと言って…」

2023/05/16
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長期政権を意識している?

 さらに3月上旬には自派「宏池会」の中堅・若手議員らに

「今年の夏までやれば宮沢喜一さんを抜く」

 と口にしたという(朝日新聞5月6日)。「抜く」というのは宏池会の先輩である宮沢喜一の首相在任日数644日のことだ。

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 この言葉を聞いた一人は「池田さんを超える長期政権を意識している」と感じたとも。ちなみに宏池会出身の首相の最長が池田勇人の1575日。2026年の1月まで首相を続ければ、岸田首相は「池田超え」を達成する。当然ながら来年9月に任期満了を迎える自民党総裁に再選されることが前提である。

宮沢喜一 ©文藝春秋

 そうか、岸田首相は長期政権を狙っているのか。となると気になることがある。では何をやりたいのか? という点だ。しかしそれは今に始まったことではない。首相に就任したばかりの頃、私は「本当は怖い岸田政権」だと感じた。ビジョンがなくこだわりがない様子はなんでも飲み込んでしまいそうに見えたからだ。昨年の正月、健在だった安倍氏は読売新聞のインタビューで次のように語っていた。

《国会では、憲法改正論議の進展に期待しています。ハト派の宏池会から出ている岸田首相の時代だからこそ、一気に進むかもしれません。》(2022年1月3日)

「暖簾に腕押し」作戦

 今だと予言のようにも読める。こういう政策は岸田首相のように何もこだわりがなさそうなトップのときにこそ実現するのだろうか? と以前に書いたが、敵基地攻撃能力(反撃能力)の次はやはり憲法改正なのだろうか。

 そこで気づくのは岸田首相の「戦法」である。このように議論が活発になりそうなお題は感情が激突することがある。安倍氏はしばしば国会で感情的になった。しかし岸田首相は何を言われても「糠に釘」なのである。応えない、響かないのだ。実際に著書『岸田ビジョン』では、

《政治家は、罵倒されたからと言って自分が感情的になってはいけません。糠に釘ではないですが、ありがとう、と笑って受け流す『暖簾に腕押し作戦』で切り抜けるしかありません。》

 と書いている。