ジュビロ磐田最大の強みは「一体感」だ。
それは名波浩監督の選手に対する寄り添うアプローチが、背景にある。一人ひとりをじっくりと眺め、コミュニケーションを取り、能動的かつ積極的にサッカーをやらせる。チームの「10番」を担う中村俊輔のプレーや姿勢を“教材”として若手に学ばせるなど、「話す」「する」「見る」環境を整えてきた。
古巣に戻った“レジェンド”が監督に就任して、5シーズン目。
いかにして選手を、伸ばしているのか。若手も、中堅も、そしてベテランも。全員を「組織のなかで」輝かせる指導とは――。
*ジュビロ磐田・名波浩監督のやりかた #1〈言葉のひと・名波浩が語る「上位進出するための目標設定」〉より続く
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――名波さんと言えば、コミュニケーション。声を掛けるタイミングで気をつけている点はありますか?
「コイツ伸びているなって感じるときにはあまり何も言わないですね。くすぶっているな、悩んでいるなという選手に対する声掛けのほうが圧倒的に多いとは思います。一人ひとりの様子はずっと見ているつもりだし、コーチからも聞くのでネガティブな状態に入っている選手は分かりますから」
――鹿児島キャンプでは田口泰士選手や新里亮選手ら新しく入ってきた選手に、よく声を掛けているように見えました。
「田口も新里も、前にいたクラブのやり方とウチのやり方では当然ギャップが出るわけだから、そこは気をつけてあげないと。だから声をよく掛けますよ。基本的にはネガティブになっているなと思ったら、逆にポジティブなことを言いますね。逆にポジティブになっているヤツには、敢えて厳しめにネガティブなことを言ってみたり。1つのことを伝えるために、どうやって言うかはすごく気をつけています」
「いろんな選手の取り扱い説明書を持て」
――名波さんの指導を見ていると「個のための個」ではなく、あくまで「組織のための個」として選手を伸ばしているように思います。
「自分の長所というものを、周りと組み合わせたときにどう活かすか、どう活かされるかを大切にしています。だからウチはいろんなヤツと組ませるし、いろんなポジションをやらせる。ゴールキーパーとセンターフォワード以外は、確実に2つ、3つのポジションはやらせていますから。入ってきた田口もボランチだけじゃなく、2列目でもやらせている。
僕がそこで選手に伝えているのは『いろんな選手の取り扱い説明書を持て』と。一昨年の夏から、口に出して言うようになったんですけど、その形は徐々にできてきたかなとは思います。俊輔だって移籍してきた去年、知らない選手ばかりだから、みんなの取り扱い説明書を持つために最初の3、4カ月は周りの選手のことを知ろうとしていました。それを全部持った5月ぐらいから、今度は自分の取り扱い説明書を、周りにさらけ出していく感じでしたね。だから新しく入ってきた選手も、まずは周りの取り扱い説明書を集めてくれればいい。そのうえでどう自分の良さを肉づけしていけるかになってくる」