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言葉のひと・名波浩が語る「選手がキャラ立ちするためのコミュニケーション法」

ジュビロ磐田・名波浩監督のやりかた #2

2018/02/23

日本人フォワードで戦い続けた理由

――選手起用で言えば昨年のリーグ戦、センターフォワードは34試合すべて川又堅碁選手を先発させています。移籍初年度で14ゴール。本人にとっては4年ぶりとなる2ケタ得点でした。

「フォワードは小川(航基)がケガでチームを離れて、堅碁もかかと痛を抱えていた。我慢の起用も時期としてはあったけど、新潟で23得点を挙げた2013年よりシュート数が増えた。つまり危険なエリアにいるということ。アイツにとっては自信になる年だったんじゃないですか」

©文藝春秋

――外国人フォワードを獲得せず、責任感を持たせて起用を続けたことが川又の「組織のための個」を伸ばしました。ただ、昨年の起用法を見ていくと、我慢するところとパッと変えるところがありました。たとえばチームの主力に成長して先発の座を守ってきた川辺駿(今季、レンタル元の広島に復帰)を11月26日のサガン鳥栖戦で控えに回して、プロ3年目の上原力也を抜擢したのはちょっと驚きましたね。

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「川辺はあの時期パフォーマンスが落ちてはないものの、上がりもしなかった。逆に、上原が上がっていった時期。鳥栖戦の前に、川辺を呼んで『上原でいくぞ』と伝えました。川辺も『分かっています』と。その次の最終節は川辺を先発に戻すつもりでいたので『最後の鹿島戦は頭から使う。練習から必死にやってくれ』とも言いました」

――きちんと説明することで、選手を納得させるのも名波流です。1対1で話すときは、監督室に呼ぶことが多いですか?

「いや、それはタイミングを見て。監督室に呼ぶときもあれば、ピッチで話すこともあります。ピッチのときは周りの選手も見ていますから、軽い話から入るんですよ。そうしておけば周りもあまり気に留めない。名波さんとアイツ、何か笑いながら話しているなあ、ぐらい。3分の2ぐらいそんな話をして、残りでまじめな話をする。自分はそんなやり方ですね」

選手に「組織ありきのキャラ立ち」をさせる

――その上原選手や小川選手をはじめ、針谷岳晃選手、荒木大吾選手、松本昌也選手などなど、若くて活きのいい個性的な選手がどんどん伸びてきている印象を受けます。

「あくまで組織ありきの“キャラ立ち”を目指しているというか。たとえば相手の背後にバンバン出ていくスプリント能力が高いキャラ、カバリングに長けているキャラ、運動量でピッチの温度感を変えられるキャラとか、それぞれいるとします。でも組織のなかで活きる、活かされるを考えたら、そのキャラを分かち合えるのが一番いい。だから背後に出ずにボールを寄こせってばかりになっている選手がいたら『背後に出ていくのが得意なアイツにコツを聞いてこい』とかも言いますよ。取り扱い説明書はみんな持ってるんだから、そこから学べることも多くありますから」

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――キャラの共有から一体感というものも生まれてくるように感じます。就任当初はピッチで選手が声を出さなかったり、選手同士のコミュニケーションが少ないことを「変えたい」と名波さんは言っていましたよね。それが今は、うるさいぐらいピッチ上のやりとりが多いように思います。

「練習中3、4人のユニットでミスが起こったときは、僕がピッと笛を吹いて指摘する前に、そのうちの1人が気づいて周りに話をしています。だから確実に自分の仕事が減っています。楽ですよ、今(笑)。今までいる選手と新しく入ってきた選手が融合するキャンプでさえ、僕の言うことは減ってきていますから。『ウチのやり方はこうだからこうしよう』みたいな声がどんどん出てくる。

 たとえば、ウチはセットプレーの練習をほとんどやらない。それでも昨年、セットプレーの得点は1位で、セットプレーの失点数も1番少ない。選手同士でコミュニケーションを取ってイメージを合わせていることが何より大きいんだと思います」