誰が言ったか、湘南スタイル。
キックオフからタイムアップまで90分間、攻守にエネルギッシュに戦い抜き、走り抜く。毎年選手が入れ替わり陣容が変わっても「攻撃的で、走る意欲に満ち溢れた、アグレッシブで痛快なサッカー」を崩すことなく、2017年の湘南ベルマーレはJ2優勝を成し遂げてわずか1年でのJ1復帰を決めた。
チームを率いるのが熱血漢のリーダー、曺貴裁(チョウ・キジェ)監督である。6年目を迎える長期政権ながら、ここには「マンネリ化」のにおいが一切しない。
親会社を持たない市民クラブに集うのは、多額の資金をかけてかき集めた選手たちではない。「共走」をスローガンに掲げ、若手、中堅、ベテラン問わずに鍛え上げ、ヤル気と成長を促している。
共感、共鳴、共有、そして「共走」。
チームを「共」で結びつける曺監督の“オレ流”マネジメントとは――。(全2回 #2につづく)
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根本にあるのは「お前のために」
――若手、中堅、ベテランと全員の力がかみ合っての優勝でした。それぞれ接し方において気をつけている点などあるのでしょうか?
「選手の年齢を頭に入れて接するというのは、ないですね。若手や中堅だけじゃなく、35歳の選手だって褒められたらうれしいだろうし、叱られたら悔しいと思いますから。それって年齢は関係ないじゃないですか。求めるものを全力でやってもらうだけ。ただ、若手にミスがあるのは当たり前で、それによって成長がある。(若手に対しては)起用法や働きかけのところで余計に神経を使うことはありますけど、年齢によって言うことを変えることはまずないです」
――選手たちを怒る状況もあるとは思います。
「怒ったことはないですね。言葉にするなら、叱る。僕も『部下の叱り方』とか本を読んだこともあります。でも年齢とかじゃなく、人はみんな違うわけだから(叱り方も)違ってくる。根本にあるのは『俺は、お前のために言ってるんだぞ』と。『お前がどう受け取るかは知らないけど、プロのサッカー選手としてこれはやったほうがいい』と、選手のことを思って言う言葉であれば、叱るは次についてくるものだと思うんです。監督の保身のために言っちゃいけない。あくまで『お前のため』が先にないといけない」
選手たちが働くのは当然、ではない
――練習でも最後まで残り、多くの選手とコミュニケーションを取っていますよね。選手に対する熱意が、選手にも伝わっている印象を受けます。
「上に立つ人がカッコ良かろうと、カッコ悪かろうと、叱る人だろうと、あまり叱らない人だろうと、監督を勝たせるために選手たちが働くのは当然だという考え方の人がいるとします。でもその考えが周りに伝わってしまえば、どんないい言葉を発してもチームには響かないと思うんです。僕は、選手から『あの人にこう言われて、むかつく』と全然思われたっていい。でもそれは『あの人はチームのことを誰よりも考えている』『真剣に俺のことを見てくれている』『あの人が一番サッカー好きだよ』というのがないといけないと思っているんです。
たとえば岡田(武史)さんはよく『世の中がどれだけ便利になっても、人の心は変えられない』と言う。リーダーは、人の心に入っていく何かを持ち合わせていないといけない。僕はそう考えますね」